ラジオ関西で毎週日曜夜(19:30-20:00)に放送中、ジャズヴォーカリストの阪井楊子さんが、ジャズを中心とした素敵な音楽と気楽なおしゃべりで楽しい夜のひとときをお届けする、『阪井楊子の雨に濡れても』が、6月30日の放送回で、放送300回を迎える。パーソナリティーを務める阪井楊子さんのインタビュー【前編】では、300回という大きな節目を迎えた感想や、ラジオへの思い、これまでの放送回のエピソードなどを語っていただいた。
――放送300回を迎えた率直な感想を聞かせてください。
本当に、「まさか!」というような、300回も番組をやらせてもらえるなんてというのと、もう300回なんだという気持ちですね。最初の頃は、1年も続けさせてもらったら、ありがたいことなのかなと思っていたら、この10月で丸6年になりますから。でも、おしゃべりすることが本職ではないので、がむしゃらにはやらせていただいて、あっという間にここまで来たという感じです。
――ライブステージでのMCと、ラジオ番組のトークでは、違いはありますか?
違います。大きく違うのは、お客様のレスポンスがあるかないかというところ。ライブ中のMCというのは、お客様からのレスポンスをいただいて、それを私が返して、膨らんでいくもの。ラジオでは一方的にお話していて、「聴いてくださっている方はどんなふうに思っているのかな」と思いながらお話しています。でも、後日聴いてくださった方から、「あの話、面白かったわ!」とか、「あのとき、こういっていたけど、こうじゃないの?」とか、実際に(ライブなどで)声をかけてくださることが多くて。時間のかけたレスポンスですが、それが、だんだんと増えてきて、すぐじゃなくても、私の言葉は聴いてくださっている方にちゃんと伝わっていて、返してくださるなというのを体感しています。だから、昔ほどレスポンスが必要だなと思うようなプレッシャー、「ひとりでやらなきゃ」みたいなものは感じなくなりました。
――ラジオで話し続けてきたからこそ、ライブにいかせていることは?
お客様からは、ラジオのお仕事をさせてもらってから、「MCがまた上手になりましたね」と言われるようになりました(笑)。それから、「曲と曲の間のMCが、ラジオを始めてから長くなったね」とも(笑)。
――トークに対する抵抗感は、以前からなかったほうですか。
最初は、ライブではありました。私はジャズを始めてから20年以上が経つのですが、最初の3~4年はライブのための台本を全部書いていたんです。その場でのトークが苦手で。それを全部丸暗記してお話して、「お客様がAのリアクションならこっち」とか、「Bのリアクションならそっち」とか、シナリオを全部作っていました。そうしないと、できなかったんです。でも、それがあるとき、あるピアニストが、「阪井さんって、MCが上手やな」って言ってくれて、そこから(シナリオを)一切書かなくてすむようになり、MCが長い人になっているみたいなんです(笑)。
――ラジオを通じてライブに来ていただいている方も増えているのでは?
いらっしゃいます! ラジオで聴いていて、「いつか実際の阪井さんに会ってみたいと、勇気を出して来ました!」と言ってくださる方が、今までに何人もいらっしゃいます。(ラジオの)影響力はすごいと思いますし、そこから夢を広げて、「実際会ったらどんな人やろ?」って思うのもすごい楽しいと思うし。それはラジオとテレビの違うところ。絵が見えないからね。
――ジャズとラジオの親和性について。ラジオから聞こえてくるジャズのよさを感じることは?
ラジオから流れてくるジャズナンバーのよさもそうですが、私が特に感じるのは、ラジオ番組でパーソナリティーをされる方の知識(の豊富さ)ですね。(リスナーとして)私はジャズを勉強している身だったので、ジャズを(ラジオで)聴くときは知識を得たくて聴こうとしますから。なので、その方が話してくださることにすごく興味を持って聴いていました。あと、「この曲をこういう人が演奏しているバージョンもあるのか」と、ラジオから知ることが多かったですし、すごく勉強しました。
――この番組で工夫されていることはありますか?
『阪井楊子の雨に濡れても』という番組は、ジャズの番組で、ジャズシンガーがしゃべって、主にジャズを流すというのはありますが、音楽のうんちくというのは誰かがしゃべっているものですし、私はそんな難しいことはしゃべらずに、もうちょっと聴いている人がほっこりするようなものになっているかなと。リスナーの年齢層も高いと思うのですが、その人たちが昔なつかしいなとと思ってくださるような曲を聴いていただいて、それにまつわるようなほのぼのしたエピソードを話したりして、ゆったりした時間を過ごしていただけたらいいなというほうが、コンセプトとしては大きいかなと思います。心地よい音楽を、心地よく聴いていただけるような、そんな番組になっていると思います。
――これまで300回で、記憶に残っている放送回は?
私の歌の師匠で、古谷充(ふるや・たかし)さんという、アルトサックスフォン奏者の方がいらっしゃるんですが、その方を初めてゲストに、満を持してお呼びした回がありました。もう御年83歳になるのですが、師匠も私のMCが下手だったのを知っていましたので、「あの阪井がラジオって……!」ということを何回も言ってはって(笑)。でも、師匠にそういうふうに言ってもらえる自分と、よう頑張ってきたなという師匠にすごく感動して、もう泣きながらの収録になったんです。それがすごく思い出に残っています。いい経験をさせてもらっていますし、成長させてもらっているんだなと思っています。
――ステージでセッションするのとは違う緊張感がありますか?
全然違います! トークと音楽は全然違います! どの方がゲストに来られてもそうですが、こちらがリードしていかないとというのがありますので。相手の方の空気を読むというか、相手の方のブレスを聴くというか。そういう意味ではセッションと同じかもしれないですが。「いま、この人はブレスをしている、突っ込みを欲しがってるかな」とか(笑)。そういうのは、ジャズミュージシャンですから、セッション的な、ぶっつけ的なところは、ちょっと強いのかもしれませんね。
※インタビュー【後編】に続く
【プロフィール】※公式ホームページより一部引用
阪井楊子(さかい・ようこ)
大阪府吹田市出身。幼少の頃からピアノを学び、ジャズ・映画音楽を聴いて育つ。ジャズ界の重鎮、古谷充氏に師事。ジャズ、J-POP、R&B、ポピュラーミュージックなど、レパートリーは幅広い。関西一円を中心に、全国各地で活動の場を広げ、会場を包み込む歌声とステージングに定評のあるジャズヴォーカリスト。第7回神戸ジャズヴォーカルクイーンコンテストで準グランプリを受賞した経歴を持つ。ギターとヴォーカル(そしてショルキー)で奏でるオリジナルポップスの世界『Leo×Leo』のヴォーカルとしても活動中。ラジオ関西『阪井楊子の雨に濡れても』は2013年10月から放送開始(当時は月曜日に放送)。公式ホームページはhttp://yoko-jazz.com/