――まずは初登場1位おめでとうございます!
入江・大沢 ありがとうございます。
――まずは大沢たかおさんにうかがいます。『AI崩壊』というこのタイトルを最初に目にしたときはどう思われましたか?
大沢 最初はまだ(脚本になる前の)企画書だけだったのですが、読んでいてドキドキするような内容だったのを覚えています。すぐに参加させていただくことに決めました。
――この作品は前作の『ギャングース』や、『22年目の告白-私が殺人犯です-』とは違って、原作のないオリジナル脚本ですが、どういう経緯からこの『AI』という題材を選ばれたのでしょうか。
入江 もともと僕は近未来の話が好きで――それは映画以外にも小説だったり漫画だったりもするのですが――だから、近未来モノをいつかはやりたいという夢があったんですよ。いまその夢を叶えるとしたら、2020年に一番旬な題材は人工知能なのではないかなと。原作がなくてゼロから作り上げるため、脚本執筆にむけてかなり取材をしました。専門家の方や企業の方に、直接会いに行って話を聞いていましたね。
――大沢さんの方はどのような役作りをされましたか。
大沢 ある程度の勉強はしたんですが、さすがに科学者にはなれないので、テクノロジーの深い部分は入江監督にお任せして、自分は桐生浩介という人物をより人間らしく演じることを心がけました。彼は科学者であるけれども、同時にシングルファーザーでもあります。一生懸命に娘を育てて、悪戦苦闘している『普通のお父さん』。そういうところも忘れずに彼の人間味みたいなものをしっかりと表現しながら演じるようにしました。
――それはもしかすると、あの「走り方」にも関係してきますか?
大沢 映画前半のシーンですよね。スマートに逃げるのではなく、「娘のために必死に逃げる姿」を演じたいと思ったので、あのような(少し不格好な)走り方になりました。AIの捜査から1人で逃げるという大事な場面ですが、ここの演じ方に、そのときすごく僕は悩んでいて……。台詞はほとんどないけれど、ここで映画を見ているお客さんに感情移入をしてもらわないといけない。どうしようかと考えた結果、桐生は科学者であって、映画のヒーローではないのではと思いました。どこかにいるお父さんだとか、どこかの女性の彼氏だとか。そういう人が突然とんでもない権力に追いかけられたら、必死になって逃げるじゃないですか。格好よく見える人はきっといないわけです。普通の人であれば、まともな逃げ方はできないだろうし、わかりやすく必死に逃げていることを観客に見せたいなと思いました。
――すごい想像力ですね。
大沢 たとえばピストルを向けられた人が映画のキャラクターのような反応をできるかと言われると、僕は何度もシミュレーションしましたが、やっぱりできないと思うんですよね。海外の射撃場に行ったことがありますが、ものすごく怖いんですよね、ピストルって。向けられるのも、向けるのも。いつ暴発するかわからないし、銃口は人には向けられない。芝居というのはほとんどそうだと思いますが、こういう自分の経験が、いつの間にかいかされたりするのだと思います。
――桐生浩介という役柄と、大沢たかおさんご自身とで、似ている部分と違う部分がありますか?
大沢 まず天才じゃないと言うところがありますね(笑)。あと、僕は結婚していないので子どももいません。そういう意味では違う人物ですね。特に娘役の田牧そらさんとの演技には悩みました。友だち同士の接し方や、親との接し方もわかるし、知人との接し方、仕事仲間との接し方はわかる。けれども「自分の子ども」という存在は、ずっと想像ができないので。父親と娘との距離感には苦戦しましたね。子役の子とはたくさん仕事をしたことがあるのですが、親子関係で演じたことはほとんどなかったので、撮影前まではどうしようかなと思っていました。
――具体的にどういった工夫をされましたか。
大沢 もう悩みに悩んでいて(笑)、初日の現場から娘役の田牧さんとのシーンがありました。どうしようかなと思って……。リハーサルをやっているときも、ただ歩くだけのシーンだったんですが、上手くいかなくて。そのシーンでは親子仲が少し曇っている場面だったのですが、かといって距離を取って歩くのも親子としては違うのかなと。そのときの距離感のままでは、親子関係が変な方向を向いたまま撮影が進んでしまうかもしれないと思いました。そこで、僕は手を無理矢理つないでみたんですよね。その瞬間に田牧さんのことを娘に思えたような気がして。(そのとき)親子としてこのまま撮影ができると確信しました。
――入江悠監督から見て、大沢たかおさんはどのような人物でしたか?
入江 先ほど大沢さんは「自分は天才じゃない」と冗談交じりにおっしゃっていましたけれども、ある種の天才だなと思いますよ。俳優業以外のことにも視野が広くて。撮影に入る前に脚本をベースに大沢さんと打ち合わせをさせていただきましたが、本当に知見が深いんですよね。科学にも興味を持たれていますし、社会情勢にもアンテナを張っている。「あれ? この方は本当に俳優さんだったっけ? 大学の先生なんじゃないの?」と思うような瞬間もありました。そういう意味では、桐生浩介という人物の天才性みたいなものを、大沢さんからも感じますね。
――俳優以外の知見も豊富だとうかがいましたが、俳優としてはいかがでしょうか。
入江 「迷っているんだったら何パターンも撮ってみましょうと」と提案してくれる俳優さんは大沢さんが初めてでした。「あとの編集の段階で、監督が1番気に入ったものを選べばそれでいい」と言ってくれて。ハリウッドの現場などではそういうこともあるらしいのですが、日本で映画を作っていて「何パターンもやります」と言っていただくのは初めて。これは感動しましたね。
――完成した映画をご覧になった時はどのように感じられましたか。
入江 最初の関係者向けの試写のときに、すごい『熱』があったんですよね。岩田剛典くんや賀来賢人くんらは特にです。自分たちが撮影中にやってきたことが1つの映画になって、新しいものができたぞという実感を持ってくれたみたいで。あのときのみんなの顔をよく覚えていますね。
大沢 不思議な感じでしたよね。ずっと出ているからほとんど現場にいるし。だから映画を見たからといって、台本とまったく違う衝撃的な発見があるわけではないです。にもかかわらず、最後は、自分で内容をわかっているのにドキドキしたり。映画を見ながら「こんなに追いかけられたらたまんないなぁ」と思ったり。自分の作品をこういうふうに見ることはあまりないのですが、今回はやけに客観的にエンタメ映画として楽しめました。
――撮影を振り返ってみていかがですか。
大沢 スタッフ、キャストみんなが挑戦していましたね。そして、緊迫した現場になりました。ときにはギクシャクするようなこともありましたが、それはみんなが新しいことに挑戦している最中で、答えが見つからないからだったんですよね。そうやってみんなで作った作品だったので、完成した映画を見たときには、「次はもっと挑戦しないといけないな」、「ぬるいことができなくなったな」と思えるターニングポイントになるような作品でした。
入江 近未来の映画は、僕の子どものときからの夢でした。まさか自分が撮れるは思っていなかったですし、しかも劇場公開が始まったらランキングが1位。自分にとって大切な映画になりました。少年時代、初めて映画にハマったときの自分に、自信を持って見せられ映画になったのではないかなと思います。
――では、最後に一言、メッセージをお願いします!
大沢 エンタメ映画ではありますが、共感したり体感したりいろいろ自分で考えたりすることができる映画です。というのも、2030年の日本が舞台の映画ですが、意外とそう遠くないのかなと思うんですよね。そんなに先の話じゃなくて、4年後、5年後にはこういう事態に陥るのではないかと感じました。今は気づかないうちに、もう基本的には、『AI』じゃないですか。ネットで買い物をしたら、自分の趣味に関する商品がどんどんオススメに出てきちゃうし、(YouTubeやNetflixなどの動画)配信サービスも、自分が1個何かを見たら、同じタイプの作品をAIが考えて提案してくれている。自分が使いたかろうが、使いたくなかろうが、いつの間にか使っているという状態ですよね。そんな状況だから、もし自分の身にも『AI崩壊』で描かれているようなことが起こるかもしれない。そのときに自分たちはどうするべきなのだろうかと考えられるような映画です。
入江 今、大沢さんがすべて言ってくれましたが(笑)、『AI崩壊』と少し仰々しいタイトルで「怖い映画なんじゃないか」とか、「ちょっと見るのを迷っている」という方もいらっしゃるかもしれませんが、気軽に見ていただきたいです。大沢さん演じる桐生のお父さんの温もりだとか、家族の絆だったり、人間らしい温かさみたいなことも感じられる映画です。もし迷っていたらぜひ映画館へお越しください!
※ラジオ関西『春名優輝PUSH!』2020年2月7日放送回より(インタビュー聞き手:春名優輝アナウンサー)
映画『AI崩壊』
出演:
大沢たかお 賀来賢人 広瀬アリス/岩田剛典/髙嶋政宏 芦名星 玉城ティナ 余貴美子/松嶋菜々子 三浦友和
監督・脚本:入江悠
企画・プロデューサー:北島直明
映画『AI崩壊』 公式ホームページ
http://wwws.warnerbros.co.jp/ai-houkai/
映画『AI崩壊』 公式Twitter
@AI_houkai
https://twitter.com/ai_houkai/