そして、試合を通してチームに落ち着きをもたらしたのが、若きボランチを四方から牽引した経験豊富な選手たち。イニエスタ、フェルマーレン、DF酒井高徳、西大伍の4選手が、今の神戸にとって大きな存在であることを、この一戦では改めて痛感させられた。
試合を決める3点目は、敵陣左サイド深くからイニエスタ、酒井が絡んだところで相手を崩したもの。酒井の折り返しに、最後は小川がまたも左足であわせて、試合を決定づけた。イニエスタはその後、小川のハットトリックとなる5点目にもGK越しのクロスで好アシストするなど、鮮やかなパスなどで再三にわたって好機を演出。格の違いを見せつけた。フェルマーレンは要所での相手の速攻で、1対1のピンチとなりそうなところでも、まったくあわてず相手をシャットアウト。まさに『壁』として君臨する。酒井と西は両サイドでハードワークを惜しまず、巧みなポジショニングでも攻守に存在感を発揮し、チームのアクセントになっていた。
忘れてはならないのが、最前線で奮闘したFWドウグラスだ。前半からハイプレス、プレスバックも惜しまず、ポストワーカーとしてもチャンスに絡むと、65分には西からの縦へのロングフィードをチームの4点目に結び付けた。相手DFを弾き飛ばしながら前線に抜け出すと、得意の左足で強烈なシュートを叩き込み、ホームでの初得点をマーク。FW藤本憲明と交代するまでの72分間のプレーで順応性の高さを示した。「個人のゴールはうれしいが、大事なのはチームが勝つこと」と、フォア・ザ・チームに徹する大型ストライカーが、今季の神戸の大きな武器となることは、間違いなさそうだ。
終わってみれば圧勝の神戸。昨シーズン終盤からのいい流れを継続し、2019年11月23日のJ1第33節セレッソ大阪戦からの公式戦の連勝を7に伸ばした。誰が出ても攻守にチームが志向するサッカーを実践できてるのも頼もしい。ただし、試合後、クリムゾンレッドのイレブンに浮かれた様子はなかった。
「もっとクレバーにまわして、もっとしたたかにできたらよかったかなと。自分たちの試合をきつくするのではなく、少しでも確実にこなすためにも、バランスが大事。今日は不必要な(ボール)ロストが多かった。自分たちでリズムを壊したり、行き当たりばったりになると消耗してしまう。相手も走らせるなど、サッカーの戦い方はもう少し改善できると思う」と振り返ったのは、酒井。また、「勝ちにつながったとはいえ、前半失点してしまいましたし、相手に押し込まれる場面だったり、カウンターを食らってしまう場面や、自分たちのしょうもないミスで相手にかっさられている場面もあったので、反省すべき点は多い」と古橋も自らやチームを厳しく律する。ハットトリックを決めた小川も、「チームとして勝てたことや、ハットトリックはうれしいが、4~5点は取れていたと思うし、一番簡単だったであろうシュートを外したことが反省のほうが自分のなかでは大きい」と自戒を込めつつ、勝って兜の緒を締めていた。
それでも、「ACL初舞台で、未知の部分もあったが、最後まで自分たちのサッカーで、チームとして戦うことができれば、今回みたいに勝つことができると思うし、手応えはつかめたので、これを続けたい」という小川は、「チーム内で競争があるからこそ、いいゲームができている。練習から強い気持ちを持ってやっていきたい」と、今後に向けてさらに気合いを込めていた。また、安井とともに中盤で奮闘した郷家は、「若手がもっともっと出ていかなきゃいけないし、黙ってちゃいけない立場でもあるので、自分たちが先陣を切ってやっていけるような雰囲気を作っていきたい」と、さらなる台頭を誓っていた。
昨シーズン前半戦には苦戦が続いた経験もあるだけに、その轍を踏まないためにも、気の抜けない戦いが続く、神戸。まずは次にやってくるアウェイ戦、韓国で行われるACL経験豊富な水原三星との一戦で、『フィンク・ヴィッセル』の継続性をしっかり見せつけ、ジョホール戦同様、結果を出すことができるかが見どころとなるだろう。アジアナンバー1を目指すタフな戦いは、まだ始まったばかりだ。(文:前田敏勝)