2月に現役引退を発表した女子サッカーの元なでしこジャパン(日本女子代表)FW大野忍さんが、INAC神戸レオネッサの育成組織にあたるINAC東京のテクニカルコーチに就任することが決まった。ラジオ関西のINAC神戸応援番組『カンピオーネ!レオネッサ!!』3月2日放送回では、電話出演したINAC神戸の安本卓史取締役社長が、放送前日に決まった大野さんの指導者転身に関するエピソードを語った。
安本社長は、Jリーグのヴィッセル神戸のフロントにいたときから、当時INAC神戸でプレーしていた大野さんと交流があったという。そのなかで、昨年には一時、大野さんからプレーを続けたいという意思も聞き、実際に獲得を検討。しかし、そのときはクラブがちょうど日テレ・ベレーザ(現:日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のエースFW田中美南の獲得に動いていた時期。同じFWというポジションだったこともあり、大野さんのレオネッサへの再加入には至らなかった。
ただ、「将来、指導者になりたいという希望も聞いていた」と安本社長。実際に日本サッカー協会公認のB級ライセンスを持っていた大野さんは、INAC神戸の黄金期を支えたレジェンドでもあり、クラブにとっては重要な存在。さらに、「将来A級、S級をとって、この先、Jリーグのような女子プロリーグができたとき、彼女のような(優れた現役キャリアを持つ)指導者が出てくることが大事になる」(安本社長)ということで、大野さんの現在の生活圏でもある東京にも育成チーム(INAC東京レオンチーナ[U-18]・フェミーナ[U-15])を擁するINAC神戸が、今回、INAC東京テクニカルコーチとして白羽の矢を立てた。
「現役でもお世話になったINACにまたこうして指導者として関われることをうれしく思いますし、いい選手を育てることで恩返しできるようにしたい。自分の経験や培ってきた技術など、言葉だけでなく、しっかり見せることで伝えていけるように努力して、自分自身が教えることに責任を持ってやっていきたい」と、INAC神戸の広報を通じて、指導者としての抱負を語った、大野さん。安本社長によると、大野さんは現役時代、幼少期の久保建英(現:マジョルカ/スペイン)のサッカー指導にかかわっていたそう。安本社長は、親交のある久保の父から「(久保)建英の最初のコーチは大野だった」という話しを聞いていたとのこと。
安本社長自身も「(大野は)明るいし、子どもも好き。ウチの子が小さいとき、大野から『一緒に写真を撮ろう!』と言ってくれる」と、大野さんの子どもに対する優しく、ざっくばらんな姿を目の当たりにしており、そのキャラクターも指導にいかせるのではという。「(現役時)試合に入れば怖いくらいのオーラを放つが、そういった経験も踏まえながら、子どもたちにいい指導してくれるのでは」(安本社長)と期待も大きい。
なでしこジャパンの主軸として2011年ドイツW杯優勝に貢献するなど、代表では139試合40得点という実績を持ち、なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)ではMVPを3回受賞しているのをはじめ、得点王4回、ベストイレブン9回を獲得。リーグ1部では312試合180得点(リーグ1部・2部通算は182得点)という偉大な記録を持つ、大野さん。国内リーグ2部や、フランスおよびイングランドといった海外でのプレー経験もあるなど、抜群のキャリアを持つ日本女子サッカー界の至宝の1人が、セカンドキャリアとして指導者で活躍することは、現役選手にもいい影響を与えるだろうと、安本社長は語る。「大野みたいに、なでしこ引退後、こういう道をちゃんと歩いてくれると、今後、『私も大野さんみたいになりたい』という選手が出てくるし、そうなれば、なでしこも強くなってくる」。
一方で、「指導というのは大変なものであり、ときにサッカー選手は簡単に言うことを聞かないもの(笑)。そういうところも学んだほうが、今後につながる」と、大野さんにいきなりトップチームの指導を任せるのではなく、アカデミーのコーチに据えたことにも、安本社長やクラブの配慮がある。そのことには番組パーソナリティーで、元Jリーガーの近藤岳登も「監督やコーチは、プレーヤーとは別物」と共感。そのうえで、「INAC東京テクニカルコーチに、納得して自分でついたと思うし、本人のやる気や、将来を見据えた動きは偉いと思う」と大野さんを讃え、指導者としてのさらなる活躍を楽しみにしていた。
安本社長によると、「開幕戦で引退セレモニーのようなことをINAC神戸でやらせてもらおうかなと思ってる」という構想もあるとのこと。なお、新シーズンのなでしこリーグ1部のINAC神戸開幕戦は、3月22日(日)午後1時から、ノエビアスタジアム神戸でアルビレックス新潟レディース戦が予定されている。
●INAC神戸、2020シーズンの主将は岩渕真奈
INAC神戸は3日、2020シーズンのキャプテンにFW岩渕真奈(26)、副キャプテンにDF髙瀬愛実(29)、FW田中美南(25)、DF守屋都弥(23)が就任すると発表した。岩渕はINAC神戸で初めてキャプテンの重責を担う。