新型コロナウイルスでにわかに注目された妖怪アマビエ。そのアマビエをテーマにした能楽作品がこのほどできあがった。
創作したのは丹波市在住の能楽大蔵流小鼓方、上田敦史さん。上田さんはこれまでにも能の作品を創作してきたが、新型コロナウイルスで家にいる時間が増えるなか、フェイスブック(Facebook)に知り合いが書いて載せたアマビエのイラストを見たとき、「ちょっとかわいい能楽作品ができるかもしれない」と思ったのがきっかけ。
古典のルールをふまえた上で、アマビエを海彦(あまびこ)という名前に置き換え、現代人にもわかりやすい内容にした。
物語はこうだ。とある大臣の夢に「疫病を鎮めるための方法を授けよう」と海彦が突然現れ、「自分の姿を写して世に広めたら収まる」……と言い残した。大臣はお告げの通りにすると疫病が収まった。これに感謝するために人々が海辺で音楽を奉納していると、実際に海彦が現れ、舞をまって、「これからも守っていくので力をあわせて乗り越えていくように」という言葉を残し海にかえって行った、というものだ。
上田さんは「疫病退散、無病長寿を願うのであれば、妖怪ではなく神様から遣わされたという形にした。海彦(アマビエ)を妖怪ではなく、神聖なもの、海神(わだつみ)からのお使いと考えた」と話す。
能楽は数百年の歴史があり、日本の芸能の原点といわれているが、現代人からすると難解なものと思われがちだ。
上田さんは「膨大な数の作品がすべて当時のまま謡い続けられているのではなく、先人たちがブラッシュアップして今日に至っている。そのなかでもちろん新しいものも作られてきた」として、これまでも古典を踏まえたうえで、できるだけわかりやすい新しい演目を作ってきた。
今回の海彦について「まだ原作ができただけなので、これから稽古して多くの能楽師の協力を得て、神社などに奉納できれば」と上田さんは話す。そして「丹波は古くから『丹波猿楽』の文化がある。その名手の『八子大夫(やつこだゆう)』を取り上げた演目も作った。これからも丹波から発信し、芸能の本来の意義みたいなものをやっていくのが目標」と、今後の活動にも意欲を示した。