あるがままの自分を貫いた画人「熊谷守一」の生誕140年を記念した特別展が、伊丹市立美術館で開かれている。
熊谷守一は「画壇の仙人」「超俗の画家」と呼ばれ、その世俗から離れたイメージが独り歩きして、作品そのものの評価と混同されることもあった。これまで代表作を集めた回顧展は各地で催されてきたが、今回の特別展は「わたしはわたし」と題し、熊谷がどのような人生と歩み、どのように作品に向き合ってきたのか、「人間・熊谷守一」に焦点を当てる。
熊谷は、1880年、岐阜県の裕福な家に三男として生まれるが、実の母親に育てられず、子どもの頃に「自分は自分」と悟るなど波瀾万丈の人生を送る。また、画家として売れない時期に日傭(冬山で大木を切り、それをいかだ代わりにして運ぶ仕事)を経験し、自然に対する思いや知識を身につけた。これが作品につながっている。
単純な形態=モチーフを明瞭な色彩で描く「モリカズ様式」と呼ばれる画風は、70歳を過ぎて確立した。輪郭線でくくられていて、面で構成されている。平面のように見えるが、筆の運び方や色で立体感を生み出す。余計なものはなく、そこには計算され尽くした熊谷の想いと純粋さがこめられており、それが見る人を魅了する。
熊谷は同じモチーフを同じ構図で繰り返し描いた。会場には、違う年代に描かれた2枚の同じ構図の猫の絵が並べて展示されている。これまで同じ構図の作品を並べて展示することは「ありえなかった」という。伊丹市立美術館の岡本梓学芸員は「1枚は『猫の筋肉の緩み』(=リラックスしているように見える)を表現したい、もう1枚は、明るめの色を使っており『色の発色を表現したい』と、違う想いで描き別の作品に仕上げている。違いを感じ取ってほしい」と話す。
熊谷が好んで描いたという動物や植物などの油彩画や日本画、そして書およそ200点が展示されている。
伊丹市立美術館
https://artmuseum-itami.jp/