中村哲さんとの秘話も、西谷さんでしか成しえなかったであろう交流だ。内戦下の庶民の暮らし、平和な日本では到底想像すらできない風俗、習慣、食生活などが次から次へと比較的短い単元で記されており、「西谷流 地球の歩き方(上)中東&アジアの片隅で」とあわせて、一読したい内容である。
この書を実際に手に取り読み進めていくと、出入国をはじめ、訪問した国々の「片隅」地域の実情がよくわかる。例えば、戦車を平和利用した店舗、地雷の埋まったゴルフ場、某組織幹部との面会、地元ラジオ局のリポーターが取材中にロケット弾が直撃し、還らぬ人となった場所での無理やりのティータイムなど、まさに最前線での密着の「命懸け」の取材にもかかわらず、要所要所に「クスっ」とさせるお笑いを放り込んでくる。まさに関西人(西谷氏限定か?)の良いところ(悪い癖?)である。どうしてもオチをつけたがる……。
また2019年に日本、そして、世界中を熱狂させた「ラグビーワールドカップ2019日本大会」で、5つのトライを挙げてラグビー日本代表初のベスト8入りに大きく貢献した松島幸太朗選手との、アフリカ・ジンバブエでの出会いのエピソードも実に興味深い。
今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍や日本各地で頻繁に起こる地震や大雨などの自然災害に重ねて戦火が襲ってきたらどうなることであろうか。我々は、か弱い子どもたちや女性を守りきることができるであろうか。いや、断じて守らねばならない。平和の尊さを考えさせられる一冊でもある。
(文:黒川良彦)
「西谷流 地球の歩き方〈下〉アフガニスタン&ヨーロッパ、アフリカの片隅で」(かもがわ出版)
著者 西谷文和
ISBN 978-4-7803-1087-0 C0036
A5判 144頁
発行年月日 2020年4月
定価 本体価格1,400円+税
西谷文和(にしたに・ふみかず) 1960(昭和35)年、大阪府生まれ。立命館大学理工学部中退。大阪市立大学経済学部卒業。大学卒業後、吹田市役所勤務を経て、現在フリージャーナリスト。「イラクの子どもを救う会」代表。2006年「平和共同ジャーナリスト大賞」を受賞。テレビ・ラジオで紛争地の取材に基づいて戦争の悲惨さを伝えている。主な著書は、『戦火の子どもたちに学んだこと-アフガン、イラクから福島までの取材ノート』『「テロとの戦い」をうたがえ』(以上かもがわ出版)『戦争はウソから始まる』(日本機関紙出版センター)など。
西谷流地球の歩き方〈下〉(かもがわ出版)
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/na/1087.html