広島県福山市から南東の瀬戸内沖で、今から150年少し前に2隻の蒸気船が追突した。そのうち1隻の「いろは丸」に乗っていたのは、坂本龍馬と海援隊であった。追突した船に助け出された龍馬は、そのまましばらく瀬戸内の町「鞆の浦(とものうら)」に滞在することとなった。幕末の1867年(慶応3年)に起こった「いろは丸事件」である。鞆の浦では今でも江戸時代からの港の町並みが保たれていて、なつかしい風景に出会うことができる。
江戸時代からの常夜灯や、雁木が残り、日本で最初の国立公園に指定された瀬戸内海を代表する景勝地の1つ、鞆の浦。その港から少し入ると、対潮楼という客殿がある。江戸時代には朝鮮通信使をもてなす迎賓館として使われ、座敷からは柱で額縁の絵のように切り取って、海に浮かぶ弁天島や仙酔島を見ることができる。その風景は通信使からも「朝鮮より東で一番美しい景勝地」と褒められたそうだ。
仙酔島へは鞆の浦から「平成いろは丸」という船に乗って5分ほどで渡れる。仙酔島は「仙人が酔うほどに美しい」というネーミングからも分かるように昔から風光明媚で知られ、無人島で大自然の営みが手付かずで残されている。島の中ほどにある「五色岩」は太古に地中のマグマが湧き出してできたもので、世界的にも珍しいそうだ。パワースポットになっている。
鞆の浦には、江戸時代から伝わる保命酒(ほうめいしゅ)という薬味酒もある。もち米、米麹、焼酎に16種類の生薬が入っていて、甘くとろみがあるそうだ。レシピは門外不出で今では4つの酒蔵しかない。リキュールなので、オンザロックや水割り、お湯割りがおすすめだ。瀬戸内で捕れる鯛も名物で、鯛飯や鯛ちくわ、鯛味噌もおいしい。
鞆の浦は町並みを愛され、映画「崖の上のポニョ」、「潔く柔く」、「ウルヴァリン:SAMURAI」の舞台にもなっている。宮崎駿監督は社員旅行で2か月滞在して「崖の上のポニョ」を構想したそうだ。「御舟宿いろは」カフェは龍馬が滞在した町家だが、宮崎監督のデッサンをもとに宿兼レストランにリノベーションされた。ステンドグラスの窓に趣きがある。
福山市から少し西へ、尾道駅では周辺に千光寺、尾道千光寺山ロープウェイ、尾道本通り商店街があり、歩いて行くことが可能。千光寺の本堂は「赤堂」と呼ばれていて朱塗りで、山に張り出した表舞台が特徴だ。尾道本通り商店街では、昔ながらの商店と新しい店が混在している。尾道の町も、映画「転校生」、「時をかける少女」、ドラマ「好きな人がいること」などの舞台になっている。