また、大滝さんからのオーダーでは、金沢明子さんの「イエロー・サブマリン音頭」の作詞を「明日か明後日に仕上げてくれ」と電話がかかってきて急遽対応したというエピソードも披露(※松本さんは日本語訳詞を担当)。「大瀧さんと組む時、本人が歌う場合は『曲が先』だった」(松本さん)。逆に、松田聖子さんへ(提供した)の楽曲は「まず詞を書いてくれ。松本のほうが確かだから、それからイメージを膨らませたい」と言われて作詞したパターンだったという。ちなみに、細野さんは「松本の詞がないと曲ができない」といい、作曲家の筒美京平さんは(詞が先でも、曲が先でも)どちらでもできるので「詞」と「曲」の交換をして、同時に進めていったそうだ。いずれにしても昔からの仲間の信頼関係があればこそと語った。
「昔のレコード(業界)はシングルレコードにA面・B面があり、9割9分『作詞先行』のほうが作品が強く『A面』になっていた。今は『作曲』が先。今の若い人たちもその傾向があり、昔ながらの『詞から入る』縦の関係が途切れ、業界のしきたりやノウハウが伝わっていない。せっかく言葉がついているのに有効に使わないとね」と松本さんは提言していた。
パーソナリティーのさくらいが、「『赤いスイートピー』『ルビーの指輪』などは自分の恋愛パターンまでに影響を与えた」と話すと、松本さんは「松本さんの詞で育って恋愛の仕方や女性像を学んだという若い人たちがいるが、そこまで寄っかかられてもボク責任を負えないんだけど……」と苦笑。
松田聖子さんの話に戻った時「彼女は魅力的な女性だから、いろいろな恋愛のシチュエーションが無数にある。怒ってみたり、ふくれてみたり、すねてみたり、泣いてみたり……。声の表情が豊かな人だからいろいろなパターンが浮かぶ。ネタは最後まで尽きなかったけどね、無限にあるな……」と振り返った。
『声の表情が豊か』。まさに「松本隆」的魔法のフレーズがふんだんに盛り込まれた放送となった。また、この日の収録中に松本さんの携帯に「木綿のハンカチーフ」を歌った太田裕美さんから連絡が入り、盟友・筒美さんの訃報を知った。収録後、対応するために急ぎスタジオを後にした。
(文:黒川良彦)