聴覚障害者が、言葉から得られる情報が少ないがゆえにコミュニケーションや情報伝達が難しく、大きなトラブルや事件に巻き込まれるケースがある。その多くは情報の入手(読む・聞く)や情報の発信(書く・話す)でさまざまな困難を抱えるために起きる「コミュニケーション障害」「情報障害」がもたらしているとの指摘もある。聴覚障害者どうしの、比較的小さく限定されたコミュニティーでは密接な関係が形成されて結束が固くなる反面、さまざまな情報を持ち、手話に長けた特定の人物の発言が優先され、自分が発言する機会を失い、相手を信用してつけ込まれてしまうことがたびたび見受けられるという。
聴覚障害がある兵庫県西宮市の60代男性は、同じ聴覚障害者で西宮市在住の50代の女性からコンビニエンスストア開業資金の名目で架空の出資話を持ち掛けられ、2010年から2014年にかけて約2400万円をだまし取られた。男性の代理人弁護士によると、男性と女性は2006年、地域の聴覚障害者の集会で知り合ったという。女性はかつて、聴覚障害者支援団体で役員をしていたこともある。
男性はもともと大阪府内で土地を取得、その活用のためにコンビニを開業したいと考えるようになった。女性に信頼を寄せるようになっていた男性がこのことを女性に相談したところ「知人の社長に数百万円を払えばコンビニを開業できる」と架空の出資話を持ち掛けられ約1200万円を支払い、さらに男性の母親に対しても「息子さんが借金をしている」などと虚偽の事実を伝えて信じ込ませ、母親は自分の定期預金を解約して、女性名義の銀行口座に約1200万円を振り込んたという。
コンビニ開業の話も立ち消え、言われなき借金の事実を知った男性は、女性を相手取り神戸地裁尼崎支部に損害賠償訴訟を起こし、2016年2月に全面的に勝訴。判決は確定したが、女性から賠償金の支払いはなく、女性が詐取した多額の現金の使い道はわかっていない。女性が破産した場合、破産管財人が財産を管理して資産の実態を解明、隠した財産を透明化して債権者である男性に被害弁償する手続きを取るのが一般的だが、詐欺事件で加害者が破産を申し出ることは考えられないため、男性は20日、女性に対する破産開始決定を神戸地方裁判所尼崎支部に申し立てた。
男性の代理人弁護士によると、男性の知人や聴覚障害者グループへの聞き取りで、この女性から同様の詐欺被害に遭った聴覚障害者は多くて10人、被害総額は数千万円~1億円規模とみられるという。こうしたことから破産管財人の強制力で解明して、被害金を回収するとともに、詐欺容疑での刑事告訴も検討している。