――前作『ブロードキャスト』はラジオドラマ部門が軸になっていましたが、今回の『ドキュメント』ではテレビドキュメント部門を軸に。この部門を選んだ理由を教えてください。
『ブロードキャスト』は新聞連載だったので、小説を読んだ後そのまま新聞を読むと、視点が変わったりする。そんな物語を書きたかったので、本当はドキュメント部門に焦点を当てたかったのです。でも、放送のことを熟知している人の視点で書いてしまうと、読者の方が置いてけぼりになるので、主人公を「放送部を知らない人」にして、さらになじみのあるドラマ部門を取り上げようと思いました。それで読者の方が放送部の存在や全国大会のことを知ったうえで、改めてドキュメント部門について書いたのが今作。あと、ラジオドキュメント・テレビドキュメントなど種類があるんですが、今作ではドローンを登場させたかったので後者を選びました。
――ドローンを使いたいと思ったきっかけは何でしょうか?
もともとドローンの存在は知っていたのですが、なんとなく自分とは無縁だと思っていました。ですが、登山番組に出演させてもらったとき、スタッフの方がドローン撮影をしていたので触らせてもらったんですね。そうしたら、山頂にいる自分よりさらに上からの視点を見ることができて感銘を受けたのが、ドローンに興味を持ったきっかけです。今、放送部で活動している学生さんも「ドローンを取り入れたい、でもどう扱うの?」なんて、少し遠くに感じていたドローンを手に入れたら、夢中になれるんじゃないかなと思って、作品に登場させました。これまでの映像って、人の視点で撮られたものが多かったのに、今は人の視点以上の映像が撮れますよね。なかにはそれを受け入れられない人もいると思うので……例えば、隣の人が庭でドローンを飛ばしているとちょっとドキドキしますよね(笑)。そういう映像の扱い方について考えるためにも、ドローンを取り上げれば新しいヒントになるかなと思いました。
◆“イヤミスの女王”が描く、学園ドラマ
――実は、これまでも湊さんの作品内には“放送部”というワードがちらほら出ていましたよね。前から放送部にスポットを当てた作品を書きたいとお考えだったんでしょうか?
演技や編集などに詳しい人がミステリー作品に絡むと、なお複雑になるかなと思って作品に取り入れていましたね。作家になる前から放送部の存在は知っていて、興味もあったので前作・今作は、「いよいよ!」「満を持して!」という感じで。もう一度高校生に戻れるなら放送部に入ってみたいなとも思っています。ラジオドラマとかで全国大会を目指してみたいですね(笑)。
――湊さんといえばミステリー作品、というイメージですが今回は打って変わって青春ドラマですよね。そのなかでもミステリー要素などは意識されましたか?
前作『ブロードキャスト』が新聞連載だったので、若い人の新聞離れを少しでも止めたいと思って、高校生が主人公の部活モノというテーマにしました。それに、新聞は朝に読む人が多いと思うので、あまり暗い作品もどうかなと思って……。私の本を手に取る方は、そういう話を求めてくれる方が多いけど、新聞で読む人はそうとは限りませんよね。私を知らない方がいきなり重い話を読むより、身近なものとして読んでほしい。そう思ってガラッと作品のカラーを変えてみました。