日本を代表する写真家・石内都の、関西では初となる特別展「石内都展 見える見えない、写真のゆくえ」が、西宮市大谷記念美術館で開かれている。2021年7月25日(日)まで。
石内都は、風景や建物、潰されたものを被写体とすることで、目には見えない触感や気配、記憶、時間を写真で表現しており、国内外で高い評価を受けている。これまでに関西でグループ展などに参加することはあったが、大規模な個展は関西で初めて。初期のヴィンテージ作品から新作まで映像作品を含むおよそ170点が展示されている。
石内のライフワークとも言える原爆による被災者の遺品を写した<ひろしま>シリーズ。毎年広島を訪れており、石内は「75年が経つのに毎年遺品が収蔵される現実がある」と話す。モノクロの写真が多い中、カラーで撮ることで、資料としてではなくそこに生活があったことがうかがえるとする。例えば、着物をリメイクしたモンペには赤いボタンが使われており、当時は赤いボタンが流行っていたのではないかと想像できるという。
2018年、石内はそれまで活動の拠点としてきた横浜を離れ、生まれ故郷の群馬県桐生市に移った。横浜を離れる際にアトリエや近隣の風景を写した<Moving Away>シリーズは、国内初公開で、日常の何気ない風景がそこにある。日常を撮ることはそれまであまりなかったといい、ミラーに映る石内の姿は「セルフポートレート」とした。
2019年10月、台風19号の影響で、神奈川県川崎市の川崎市市民ミュージアムの収蔵庫が大きな浸水被害を受けた。ここには石内が木村伊兵衛賞を受賞した<APARTMENT>などの作品が収められていたが、「絶望的な状況」だったという。石内は言葉を失いつつも、被害を受けた自らの作品をカメラに収め、最新作<Drowned>として今回初めて展示した。
写真はネガフィルムさえあれば、また再現=複製できるのではないかを思われがちだが、自らの手でモノクロ作品をプリントする石内は、その時の気持ちや感情を込めて作業をしており、「2度と同じものはできない」と話す。
どの作品にもそれぞれのストーリーや時間、そして石内の思いが詰まっており、タイトルとなった「見える見えない、写真のゆくえ」は、石内自身が発案したという。西宮市大谷記念美術館の作花麻帆学芸員は「石内さんの回顧展という位置付けではなく、石内さんの今を見ることができる」と話す。
◆「石内都展 見える見えない、写真のゆくえ」
会期 2021年4月3日(土)〜7月25日(日)
会場 西宮市大谷記念美術館
休館 水曜