新型コロナウイルスのため、多くの人がつらい日々を過ごしてします。また、梅雨に入り、蒸し暑くなると、つい、イライラして腹が立ち、「むかつく!」なんてことを口走ってしまうこともあります。今回の「ことばコトバ」では、その「むかつく」について紐解きます。よく「若者言葉」とも言われていますが、本来の意味は何でしょうか?
『広辞苑』(第七版)では、(1)「胸がむかむかする。吐き気をもよおす。」、(2)「その事が不愉快で、腹立たしく感じる。」とあります。
そうなんです。実は辞書には「腹が立つ」という意味がすでに載っているのです。ではいつ頃から「腹が立つ」という意味が記されているのでしょうか? さかのぼってみました。
1939(昭和14)年の『広辞苑』の前身にあたる『辞苑』を見ると、「吐き気を催す。」、その次に「癪にさわって腹が立つ」と書かれています。そして1936(昭和11)年の平凡社『大辞典』初版には、2番目の意味で「胸の悪いほど癪にさは(わ)る。」とあり、その後に「関西方言」と記載されていました。えっ、関西の方言……(?!)と思い、さらにさかのぼって調べてみました。
『精選版 日本国語大辞典』2006(平成18)年には、こうあります。
(1)(「むかづく」とも)胸がむかむかする。吐き気がする。〔医心方天養二年点(1145)〕
→俳諧・江鮭子(1690)「柴の戸の軒にかいよる春の雪〈之道〉 石焼けぶりむねにむかつく〈同〉」
(2)腹が立つ。立腹する。しゃくにさわる。
→雑俳・すがたなぞ(1703)「敷銀はむかつく時の礫たて」
→ありのすさび(1895)〈後藤宙外〉五「顔看ても胸むかづき優しく為るれば為るる程、尚嫌になりしか」
言い方は多少異なるかもしれませんが、かなり古くから「むかつく」という言葉が使われていたことがわかります。
また、天保年間に出た『大阪詞大全』には、「むかつくとは はらのたつこと」という記載があり、少なくとも幕末期の上方では「むかつく」が「腹が立つ」という意味で使われていたようです。ただ、これはあくまで上方あたりの話で、今のように全国で使われるようになったのは、どうやら昭和の終わり頃だったようです。