大阪教育大附属池田小児童殺傷事件から20年 学校長の言葉【全文掲載】 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

大阪教育大附属池田小児童殺傷事件から20年 学校長の言葉【全文掲載】

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■眞田 巧(さなだ・たくみ)学校長の言葉

眞田 巧・大阪教育大学附属池田小学校校長
眞田 巧・大阪教育大学附属池田小学校校長

 今から 20 年前の平成13年(2001年)6月8日、この時間に不審者の侵入を防ぐことができずに、8人の児童の尊いいのちが奪われ、13人の児童と、2人の教員が 傷つけられるという大変悲しくつらい事件が起こりました。
 この場所では、子供たちが恐怖におびえながら逃げ回りました。たくさんの緊急車両 が並びました。上空には、たくさんのヘリコプターが飛んでいました。子供たちを心配するたくさんの保護者の方が駆けつけてこられました。運動場で待機する子供たちは、 不安におびえていました。私を含め教職員は、自分の学校でありながら何が起こっているのか十分に理解することができなかったため、迅速な対応や組織的な対応ができませ んでした。次々に伝わる被害の大きさに茫然とするしかありませんでした。当時は、「学校は安全なところである」という根拠のない思い込みにより、不審者侵入に対する 想定ができていませんでした。

 あの時から20年の年月が過ぎました。現在の学校は、安全に配慮され設備が整った校舎で子供たちは学ぶことができています。教職員は、当時の教職員の思いを受け継ぎ学校安全の取り組みを進めています。8家族の皆様、本校保護者、地域の方々をはじめ、 本校に関わってくださる多くの方々が、本校の教育活動を見守り、支えてくださっています。20年という年月の中で、一日一日の取り組みが積み重なり、一年一年の取り組みが積み重なり、現在にたどり着きました。

 児童は、校長室の8人の写真に会いに来てくれます。中には、絵や折り紙で作った作品を置いてくれます。6年生は花壇の植え替えの際やこの「祈りと誓いの塔」の前など で1年生にやさしく語りかけてくれます。事件後の取り組みを示したパネルを熱心に見入る児童の姿も見ることができました。安全科の授業の中では、学校の安全設備につい て真剣なまなざしで質問してくる児童もいます。
 教職員は、事件当時の教職員の思いや願いに寄り添おうとし、本校のみならず、現在の全国の学校を取り巻く安全の課題に注目し、今自分たちができうる学校の安全対策に ついて熱心に語り合い、設備に頼ることのない不審者対応訓練の在り方や安全科の授業 の充実にも力を注いでくれています。
 本校保護者をはじめ、地域の方々や関係機関の方々は、本校の教育活動が安全で安心 な環境で進めることができるよう、見守り活動や重要なアドバイスを様々な場面で寄せ てくださっています。時には厳しいご意見もいただきますが、それをもとに本校の教育活動を見直す機会とさせていただいております。

 このような取り組みを続ける中で、20年の年月が経ちましたが、この節目がゴールではありません。学校安全の取り組みを進める次のステップに向かう通過点にすぎない のです。学校の安全を保障する近道はありません。これまでのような地道な取り組みを 継続していくことが大切であると考えています。
 しかしながら、子供が巻き込まれる悲しい事件が今もなお続いていることは残念であ り、無力さを感じることもあります。しかし、あきらめては、これまでの取り組みが活 かされなくなります。本校としては、これまでの地道な取り組みを継続するとともに、 近隣の学校のみならず、全国の学校と手をたずさえて、それぞれの経験や知見を情報交換し、安全管理の徹底と、教育の力によって、人を傷つける側の人間ではなく、自他の いのちを大切にし、人を守る側、支える側の人間を育てることを目指していきます。そ して、学校だけでなく、学校に関わるあらゆる方々と知恵を出し合い、目の前の子供が 笑顔で元気に過ごせる学校生活を保障するために前を向いて取り組んでいきます。

事件を受け2009年に開始した「安全科」授業は年間15時間組まれている<2021年6月8日>
事件を受け2009年に開始した「安全科」授業は年間15時間組まれている<2021年6月8日>

 さて、今年も、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、教育活動に制限がある 中での今日を迎えています。本来なら、これまでの本校の学校安全の取り組みを支え、 見守ってくださった方々にご参加いただき、本校保護者も参加しての集いを開催すべき ところですが、感染拡大防止のため本日のような形での開催となりました。本来あるべ き姿の集いが今年も実施できないことが本当に残念に思うとともに申し訳なく思って おります。

 最後になります。事件で亡くなられた8人のみなさん、みなさんが大好きだったこの附属池田小学校は、引き続き、日本中の学校とさらには世界中の学校と手をたずさえ、 学校が安全で安心して学べる場所であるようにこれからも努力を続けます。
 この場所にいる大人は、決して事件を風化させることなく、目の前にある「祈りと誓いの塔」が建てられたその深い思いを受け継いでいけるよう努力を続けていきます。

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