青年期の北斎にとって、重三郎との出会いは、まさに人生を変えた出会いであり、つまり、誰とコラボするか、誰とパートナーシップを結ぶかは、人生を大いに左右するということなのだ。
コト(瀧本美織)を妻とし、娘・お栄(河原れん)が生まれる。お栄は応為という名で、年を重ねた北斎(田中泯)の弟子としても身の回りの世話を続けた。
武士でありながら、身分を伏せて戯作者として多くの作品を書いた柳亭種彦(永山瑛太)とは、その挿絵を描くという縁で長年にわたりパートナーだったが、威信を保つために庶民の風俗を取り締まる幕府によって処罰される。種彦の死に、怒りで震えながら「こんな日だから、絵を描くんだ」と言った北斎の言葉は心にささる。
若き日、歌麿がご禁制に背いた罪で捕らえられたときにも、同じ台詞を吐いている。当時、寛政の改革から天保の改革に続く幕府の取り締まり強化に対し、その理不尽さに敢然と立ち向かい、何があっても決して諦めず描き続けたそのパワーの源を、この言葉に見た。
今作では、3人の俳優が北斎を演じている。少年期を「万引き家族」の城桧吏。青年期を「誰も知らない」でカンヌ国際映画祭・最優秀男優賞を最年少で受賞し、今や映画にTVに引っ張りだこの柳楽優弥。そして老年期を、世界的舞踊家で、現在公開中の映画「いのちの停車場」では吉永小百合の父親役を演じるなど、俳優としても輝いている田中泯が演じ、北斎の持ついろいろな凄さが、画面から伝わってくる。
特に、田中泯の身体能力の素晴らしさは、舞踊家として鍛えた賜物だろう。当時40~50歳が平均寿命といわれた江戸時代にあって90歳まで生き、生涯現役だったという北斎のバイタリティがストレートに伝わってくるダイナミックさ! できれば、もっといろんな絵を描くシーンを観たかった。
当初は昨年2020年の5月29日に公開予定だったので、ちょうど1年待たされたことになる。コロナ禍で多くの映画館や美術館、コンサートホールや劇場、寄席などがクローズされ、「芸術文化は不要不急か?!」とフラストレーションはかなりのものになった。
北斎が生まれた東京都墨田区にある「すみだ北斎美術館」も再開し、この映画の半券を持って行けば、割引もあるそう。
80歳を過ぎて江戸~小布施を4回も往復したという長野県小布施町の「北斎館」、それになんと大阪の心斎橋にある「大阪浮世絵美術館」でも多くの北斎の絵に出会うことができる。