原作は2015年に『サラバ!』で直木賞に輝いた西加奈子のベストセラー小説。東日本大震災の前、石巻と女川を訪れ、女川の漁港で焼き肉屋をみたことから構想が膨らんで、執筆中に震災が起きたという作品。この小説にほれ込んださんまは、最初ドラマ化を考えたが、構想5年、結局アニメでの映画化となった。
男にダマされ、お金を貢いでは借金に追われ、恋が終わるごとに各地を放浪し、北の漁港の町に流れ着いた肉子ちゃんは、体型も性格も豪快で、子どもみたいに純粋な38歳。一方、娘のしっかり者で大人びた11歳のキクコは小学5年生。
漁港にある焼き肉屋“うをがし”で働き、オーナーの持つグラスボートを借りて住んでいるふたり。体型も顔も全く似ていないこの二人、見た目だけじゃなく性格も正反対。父親がいないことも含め、何かいわくのありそうな二人。
地元の小学校に編入したキクコは、高台の洋館に住むクラスメイトのマリアと仲良くなるが、この年頃の女の子特有のグループでのもめごとに巻き込まれたり、風変わりな少年、二宮のことが妙に気になったり……。
食べ物が印象的で、焼肉屋でオーナーが焼いてくれるミスジ(肉の部位)、ミートスパゲッティ、肉まん、そして朝食に肉子とキクコがフレンチトーストを一緒に作るシーンは『クレイマークレイマー』のダスティン・ホフマンとジャスティン・ヘンリーを思い出す。そういえば、バスを待つシーンは、まんま『となりのトトロ』だし、名作へのオマージュ、愛がいっぱい詰まっていて、映画ファンにとってはうれしい限り。
監督は『ドラえもん のび太の恐竜2006』や『海獣の子供』などの渡辺歩。キャラクターデザイン・総作画監督の小西賢一はスタジオジブリの一期生だから、随所にジブリテイストを感じるのも自然な流れなのだろう。アニメーション制作は世界から高い評価を受けるSTUDIO4℃だ。
声優キャストも豪華で、肉子役は大竹しのぶ。さんまの元妻ということで話題になったが、『借りぐらしのアリエッティ』や『インサイド・ヘッド』など、声優としての実力もばっちり。ただ大阪弁に「???」というところもあるが、それは全国を渡り歩いた肉子の人生を象徴するということなのかも。キクコ役は声優初挑戦のCocomi。あの木村拓哉と工藤静香の長女で、フルート奏者としても活躍中の彼女は、サントラに演奏でも参加している。声優学校で学んだことも活かされていて、決して話題作りのためだけのキャスティングではないことを証明してみせたのはさすが。二宮役には、『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎を演じ、ノリにノッている実力派声優・花江夏樹。
「普通が一番ええのやで」という、とても普通の生き方をしてきたとは思えない能天気な肉子。「迷惑かけたって大丈夫! 他人じゃない、家族と思っているからちゃんと怒る」というまわりの人たちの優しさに包まれて育っていくキクコ。
◆劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』
6月11日(金)全国ロードショー
企画・プロデュース:明石家さんま
出演:
大竹しのぶ、Cocomi、花江夏樹、中村育二、石井いづみ、山西惇、八十田勇一、下野紘、マツコ・デラックス、吉岡里帆
原作:西加奈子「漁港の肉子ちゃん」(幻冬舎文庫)
監督:渡辺 歩
総作画監督:小西賢一
美術監督:木村真二
脚本: 大島里美
音楽:村松崇継
主題歌:稲垣来泉「イメージの詩」
作詞・作曲:吉田拓郎
編曲:武部聡志
サウンドプロデュース:GReeeeN (よしもとミュージック)
エンディングテーマ:GReeeeN「たけてん」(ユニバーサル ミュージック)
演出:秋本賢一郎
CGI監督:中島隆紀
色彩設計:伊東美由樹
音響監督:笠松広司
編集:廣瀬清志
アニメプロデューサー:青木正貴
アニメーション制作:STUDIO4℃
配給:アスミック・エース
製作:吉本興業株式会社
(C) 2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会
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