第二次安倍内閣が2014年、「内閣人事局」を発足させたことで、霞が関の官僚人事は内閣が完全に掌握し、政権にとって都合の良い官僚人事が可能となりました。このことが政権におもねる官僚を生み、忖度(そんたく)できる官僚を育て、「モリ」「カケ」「サクラ」へとつながります。
官邸の思い通りにならないのは「新型コロナウイルス」だけでしたが、これも「ワクチン」の普及により近いうちに収束させることが見込まれていました。ところが、ワクチンの輸入が思うに任せず、菅総理の号令一下「1日100万回」超えのワクチン接種が実現したかと思った矢先の急ブレーキです。「ワクチン頼み」の思惑が外れた格好になりました。
それでも、ここで「東京オリ・パラ」さえ成功させれば「政権浮揚」は間違いなく、秋の衆院総選挙も盤石になる予定でした。しかし、東京都に4度目の緊急事態宣言を発令しなくてはならない状況に追い込まれ、「有観客」のシナリオが崩れて原則的に「無観客」となったことで、「完全な形でのオリ・パラ」の実施はもはや望むべくもありません。
■「緊急事態宣言が来たぞ、はもう通じない」官邸の焦り、見え隠れ
いまや官邸には「焦り」が見え隠れしているような気がします。今回の西村大臣による「金融機関からの”働き掛け”要請」や「酒類販売事業者に対する”取引停止”要請」をめぐる2つの要請発言は、官邸の「焦り」が如実に発現したものです。一連の西村発言は、けっして西村大臣個人の「思いつき」ではないでしょう。官邸サイドは否定していますが、菅総理自身も了承していたと思われます。そうでなければ、ただでさえ「タテ割り行政」の仕組みのもとで、西村大臣が所管しない国税庁が、酒造メーカーや販売業者団体に向けて早々に「休業要請に応じない飲食店に対する取引停止」を求める文書を発せられるはずがないからです。
もちろん、このような官邸の「焦り」も理解不能ではありません。4度目の緊急事態宣言は「オオカミ少年」の叫びのごとく、もはや国民の心には届かないことが明らかです。しかし、妙案もありませんから、勢い「締め付け」を強める「北風」のような思考に陥りがちなのでしょう。ただ、人心を掌握できるのは「北風」ではなく「太陽」であることは誰でも知っています。困窮する国民に「寄り添う心」なくして現状の打破は不可能というべきでしょう。
飲食店を「目のかたき(敵)」のように扱い、押さえつけ、取り締まりを強めるだけでは、何の効果も見込めないと言っても過言ではありません。有効な感染防止対策(飛沫防止策、換気徹底策)を行う店に助成金を出したり、休業するお店にはリアルタイムで「正当な補償」を実施したりすることによって、ようやく飲食店からの理解と信頼を得られるのではないでしょうか。