神戸市で、猫も幸せに暮らせるまちづくりを目指す全国初の条例ができてから、今年で5年になる。同市では猫の引取りや殺処分の数が年々減少し、人と猫との関係が少しずつ変わってきているという。
神戸市で2017(平成29)年4月に制定されたのは、「神戸市人と猫との共生に関する条例」。繁殖制限に特化した条例は全国に先駆けてのもので、これまで飼い主のいない猫による地域トラブルや殺処分を減らすために様々な取り組みを行ってきた。
人と猫のトラブルには、野良猫のふん尿やひっかきによる迷惑、車に傷をつけるなど物を壊すトラブルがある。また迷惑をかけるのは猫だけではなく、人間が用意した餌の放置による悪臭や、適正な飼育ができなくなるまで動物が増えてしまう「多頭飼育崩壊」などもある。神戸市では、2017年に猫53匹の放置で強制退去処分、部屋の修繕費などが約1千万円になる事案もあった。
そのようなトラブルを減らし人と猫が共生する社会を実現するために、2019(平成31)年には、猫に関わるすべての人たちに向けたガイドラインが策定された。猫の飼育方法や、不妊去勢手術、災害時の準備などの様々なルールや、野良猫についても適正な管理の仕方が紹介されている。また行政や動物取扱業者、市民などそれぞれの立場の人たちが何をすべきか、責務や役割に関する考え方もまとめられている。ガイドラインは神戸市のホームページで公開されている。
動物が苦手という人も多く、野良猫はトラブルになりやすい。神戸市では野良猫のトラブルを減らすために、地域ぐるみで猫の世話をする「地域猫活動」も行われている。飼い主のいない猫を増やさないための不妊去勢手術や、適正なエサやり、ふん尿の清掃など、地域でルールを決めて野良猫の管理を行う取り組みだ。現在、市の登録を受けた127の地域猫活動団体が活動中。他にも、ふるさと納税による動物愛護支援事業への寄付や、動物管理センターでの譲渡会、離乳前の子猫にはミルクボランティアの制度も運用されている。
こうした取り組みが行われるなか、この5年で、人と猫のトラブルは減ってきているという。猫に関するクレームはまだ多いが、引取りの猫は年間100匹程減少。また殺処分の数も、2016(平成28)年度には約400匹が、2020(令和2)年では95匹と減ってきている。
飼い主のいない猫の不妊去勢手術費用については、「神戸市人と猫との共生推進協議会」を通じて全額助成。これまでに約8,000匹の猫の手術費をまかなってきた。「不妊去勢手術」を行うメリットは、望まない妊娠を防ぎ、むやみな猫の繁殖を避けるほか、発情期の鳴き声やマーキング行動を減らし、生殖器系の疾病の予防にもつながる。不妊去勢手術を受けた猫は、片方の耳にV字の切れ込みが入れられ、その証を残している。
神戸市健康局環境衛生課の玉嵜一彦さんは「動物は損得の感情抜きで、人にも愛情を注いでくれる存在。そんな動物に対して温かい目を向けることは、動物だけでなく人に対しても優しいということにつながる。人と猫との共生に関する取り組みを通して、神戸市全体が住みよい街になるようにしていきたい」と話す。