「信じられなかった。現実じゃないような気がした」。2010年10月、神戸市北区筑紫が丘の路上で高校2年の堤将太さん(当時16)が刺殺された事件で、当時17歳だった愛知県豊山町の男(28)が事件発生から10年10か月ぶりに逮捕されたことを受け、将太さんの父親の敏さんが4日夜、ラジオ関西の取材に応じた。
敏さんによると、兵庫県警・神戸北署捜査本部から犯人逮捕の電話連絡があったのは、4日正午ごろ。妻の正子さんも、あっけにとられた様子だったという。
犯人への怒りと憎しみは強まってゆく。敏さんは居ても立ってもいられず、将太さんの同級生らの協力を得て、情報提供を求める自作のチラシを自宅でプリントアウトして現場周辺で配り続けてきた。最初は自宅から半径200メートル圏内。その後、半径約1キロ圏内の6千世帯にまで徐々に範囲を広げてポスティングした。ある日、身に着けた歩数計を見れば27キロメートルと表示されていたという。自作のチラシは10年あまりで5万枚近くにのぼる。ただ、ふとした瞬間に、大学生や社会人になってゆく同級生を見て、「将太が生きていたらどんな感じだったのだろう」と切なくなるときがある。「事件さえなければ、今ごろ孫を抱っこしていたかも知れない。将太の子どもを」
逮捕の一報は、将太さんの遺影に報告した。「せめて将太の居場所だけでも」。11年前の秋、将太さんが居なくなり、ポッカリと穴が空いたような家庭。ありし日の将太さんの写真や遺品の携帯電話が置かれている。そして部屋のレイアウトは、使っていたベッドを折りたたむだけで、将太さんが暮らしていた当時のままに。「これからは容疑者とも真正面から向き合う。やがて始まる裁判、法廷で将太がなぜ殺されなくてはならなかったのかを知りたい。戦いはこれから」と語った。