夫の“Life is too short”(人生はあまりに短い)という言葉によって「人生は楽しむためにある」という、当たり前のことに気づいたという。実に伸びやかに、自然に、楽しんで人生を生きる素晴らしいカップルなのだ。
一方、映画の中での夫、相馬日和(田中圭)は、大財閥の次男坊で、鳥類研究所に勤めるただの鳥オタクだったはずなのに……。携帯の電波も届かない僻地まで鳥を追って出張し、帰ってきたら、凛子の総理就任によって知らないうちにファーストジェントルマンになってしまっていたという、何とも浮世離れした巻き込まれ型のキャラクター。
結婚12年目。すれ違いながらも、互いを信じあいそれぞれの道を歩み、ちゃんと支え合っている二人。
おいしい朝食を作り、優しく妻を起こす。女性が社会的な成功を収めるために、パートナーの男性が果たすべき役割は何かを、自然と理解して実践している素晴らしい夫。妻が仕事に忙殺されても、決して、「ボクと仕事とどっちが大事?」なんてバカなことは言わない。
男女の区別なく、意欲のある人があらゆる分野で活躍できるのが理想の社会だが、世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数(男女格差指数)によると、日本は156の国と地域の中で、2020年は過去最低となる121位で、2021年は過去2番目に低い120位。男女共同参画社会の実現にはほど遠い現実なのだ。
撮影中に、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相が事実婚のパートナーとの子どもを産み、世界で初めて、首相在任中に産休を取ったというニュースも飛び込んでくるなどタイムリーな話題もあった。凛子を支える内閣広報官の富士宮あやか(貫地谷しほり)がシングルマザーだったり、政界のドン(岸部一徳)に振り回されたり……と、現実社会にありそうな問題も織り込んだストーリー展開は、ある意味、決して夢物語とばかりは思えないリアルさで迫ってくる。
理想の国のトップとは? 理想の夫婦の在り方とは?
奇しくも現実に国のトップが変わるという時期なだけに、いろいろと考えてしまうが、「政治色よりもヒューマンコメディ、ハートウォーミングなドラマとして観てほしい」との監督の言葉通り、とにかく、すべての働く女性とそのパートナーにぜひ見てほしい作品だ。(増井孝子)