まず、この秋のイチオシドラマは、金曜ドラマ『最愛』（午後10時～、TBSテレビ系）。TBSテレビのこの時間帯といえば、湊かなえ原作の『夜行観覧車』『リバース』『Nのために』などサスペンス色のイメージが強い。このドラマもその流れをくんでいるが、今回はオリジナル脚本で勝負している。吉高由里子・松下洸平主演で2006年の岐阜・飛騨と2021年の東京を行き来しながらストーリーが展開。井浦新・及川光博・薬師丸ひろこなどが個性的な演技で脇を固める。吉高由里子は今や連ドラには欠かせないヒロインだが、松下洸平のリップの色が赤すぎるのが気になる。刑事役だけに違和感を持つが、どうして最近は男優の唇に色を足すのが常識化したんだろう。早々と犯人はわかってしまったが、これからあの夜の真相が徐々に解明されていく。
サスペンスといえば日曜午後10時30分からの『真犯人フラグ』（日本テレビ系）も目が離せない。秋元康の企画・原案は『あなたの番です』が大ヒットしたが、それに次ぐ2クール（半年間）の連続ドラマ。西島秀俊・宮沢りえ・芳根京子をメインに据えるが、次々と怪しい訳ありな人物が登場。芳根の演技が近年どんどんうまくなっている。あと4か月半も話がひっぱれるのかと心配だが期待して見守りたい。ちなみに、この秋クールで秋元康はほかにも、深夜帯のドラマで、『じゃない方の彼女』（テレビ東京系）や、『この初恋はフィクションです』（TBSテレビ系）なども手掛けている。
フジテレビ系の月9はシリーズ第2弾となる『ラジエーションハウスII～放射線科の診断レポート～』。病院の放射線室にスポットをあてた窪田正孝主演の医療ドラマだが、これはツッコミどころがいっぱいだ。まず放射線科医師の本田翼がどうしてもドクターに見えない。本田翼の役名が「甘春」（あまかす）というのがしっくりこない。院長・髙嶋政宏の「技師」というアクセントがおかしい。そして一人の患者の撮影に放射線室全員が集まるが、ほかの仕事はどうなっているのだろう。また技師長の遠藤憲一が『ドクターX～外科医・大門未知子～』（テレビ朝日系）で見せた頼りない外科部長とどうしてもかぶってしまう……。こんなことをつぶやきながらも、毎回楽しく見ている。
そして期待せずに見てはまってしまったドラマが2本。ひとつはフジテレビ系木曜午後10時の『SUPER RICH（スーパーリッチ）』だ。江口のりこはゴールデン連ドラ初主演で、関西弁で通している。これがうるさくペラペラしゃべるのではなく、哀愁に満ちた心情をぽろっと吐く関西弁がすごく生きている。また夏ドラマの『彼女はキレイだった』（カンテレ・フジテレビ系）で注目を浴びた赤楚衛二が、ひたむきな青年を好演している。
もう1本は日本テレビ系土曜午後10時の『二月の勝者－絶対合格の教室－』。中学受験の二流塾校長に就任した“最強で最悪のスーパー塾講師”黒木蔵人を演じる柳楽優弥は、独特の髪型で「塾は子どもの将来を売る場所です」「中学受験は課金ゲーム」などと言い放ち講師たちを困惑させる。井上真央がけなげな新人講師を熱演。リアルな受験対策・模試対策も盛り込み、親子の葛藤や塾経営のしくみなどもきっちり描いており、いまの中学受験の実情が浮き彫りになるドラマだ。
TBSテレビ系日曜午後9時は、小松左京の原作刊行から48年の『日本沈没ー希望のひとー』。今回は設定を現代に置き換え、小栗旬と松山ケンイチがタッグを組んだ骨太作品。田所博士を演じる香川照之の狂気に満ちた演技は、『ドクターX』の外科部長・蜂須賀隆太郎（野村萬斎）と同様にいささか疲れるが、強烈な印象を残す。ここは男性視聴者が獲得できる貴重なドラマ枠だ。
そのほか月曜午後10時の『アバランチ』（カンテレ・フジテレビ系）は警察の裏組織の活躍を描くが、主演のキャスティングは綾野剛以外に考えられない適役。水曜午後10時の『恋です！〜ヤンキー君と白杖ガール〜』（日本テレビ系）は杉咲花・杉野遥亮の身長差30センチ差のスギスギコンビが織りなす胸キュンドラマだ。
残念なのはTBSテレビ系火曜午後10時の『婚姻届に判を捺しただけですが』。これはどうしても『逃げるは恥だが役に立つ』の変化球版に見えてしまう。ちょっと変わった結婚形態を描くが、坂口健太郎は星野源を越えられず、清野菜名にも新垣結衣ほどの魅力を感じない。
深夜枠では不倫コメディ『じゃない方の彼女』（テレビ東京系）、マスコミ親子3代の男たちを描いた『和田家の男たち』（テレビ朝日系）、魔女・松本まりか主演の『それでも愛を誓いますか？』（ABC・テレビ朝日系）に注目している。
これからどのドラマも後半戦へ突入。はたしてどの作品が抜け出すのか、目が離させない。（羽川英樹）
