「春」とありますが、冬の季語。実は、ちょうどこの時季に使う言葉です。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)によりますと、「小春」について「(暖かで春に似ているからいう)陰暦10月の異称」とあります。そして「小春日和」の項目には「小春の頃の暖かいひより」と書かれています。
また、『新明解国語辞典 第八版』(三省堂)には「陰暦10月のころの(ような)よく晴れた暖かい日和」、と。
そうなんです。「春」という文字が含まれてはいますが、「春」そのものを示すのではなく、「春のような」という意味で使われる言葉なのです。
文化庁のWEB広報誌『ぶんかる』内「言葉のQ&A」(2018年5月9日付)に、小春日和について尋ねた「国語に関する世論調査」(平成26年度)の結果が載っていました。それによりますと、「初冬の頃の、穏やかで暖かな天気」という本来の意味で答えた人が5割強、「春先の頃の、穏やかで暖かな天気」などと誤った人が4割強いました。
正答率は、年齢によって違いが見られました。30代以上では本来の意味を選択した人が多く、特に50代、60代はほぼ6割が正解でした。それに対し、20代以下の正答率は4割弱、10代では3割を下回っていました。
年齢による差はやむを得ないと思います。辞書にもあった「陰暦の10月」と言われても、現代の私たちにとってはそれほどピンとこない、ましてや若い世代には縁遠いと想像できるからです。恥ずかしながら、私も「春」という言葉に引っ張られ、20代の頃には誤って使ってしまったことがありました。
現代は地球温暖化の影響から、日本でも春や秋が短かったり、夏が極端に暑かったりします。こうした言葉をいつまでも使える四季折々の風景、残していきたいですね。
言葉は時代とともに、その意味も使い方も変化します。「ことばコトバ」では、こうした言葉の楽しさを紹介していきます。