「その(展開の)代わり目も役者の見せ場です。ただ、そこまでに、どれだけお客様に楽しんでいただくか……ということに徹底したお芝居じゃないかと思います」
出演するもう1本の「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」では源頼光を演じる。源頼光主従の蜘蛛退治を元にした、主演の片岡愛之助の早替りあり、立廻りありの舞踊劇だ。「色彩、音楽、踊りもありで、歌舞伎を楽しんでいただく、歌舞伎を観た実感をとても強く感じられる踊りだと思います。そのなかで頼光という大きな役をつとめられれば」と話す。
そんな顔見世だが、恒例のまねきに、上方の地を愛した人間国宝の片岡秀太郎さんの名前が今年はない。(2021年5月23日に死去)
「去年の顔見世興行が、最後の舞台になってしまったのは、本当に残念というか、悔しいというか、そんな思いでいっぱいです。2021年7月の大阪松竹座で、『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』をさせていただき、そこでお願いしていた役があったのですが……。(亡くなられたことを)伺った時、信じないことにしました。なぜなら『ありがとうございました』と言ってしまうと、ピリオドを打った感じになるので、当分言わない、信じないことにしました。そして7月の大阪(での公演)に行って、(秀太郎さんのことを)たくさん思い出してその時に泣こうと。7月は復活興行だと思って行くんだ、と思っていたので悔しいですね。でも、秀太郎さんが常に側にいらっしゃるんだなっていう思いは感じています」
そう話す幸四郎さんの家・高麗屋は約350年続く江戸歌舞伎の家だ。にもかかわらず、上方歌舞伎への思いが本当に強い。過去には大阪・松竹座の書庫で何時間も古い台本などを読みふけったこともある。なぜだろうか。
「上方のお芝居は好きな作品が多いです。主人公が人間的な役が多いですね。何かに長けているけど、欠点もある。そんな人間臭さを感じる人物が主人公になっているものがたくさんあって、そういう世界が好きです」
そのうえで、京都での顔見世への特別な思い入れを語った。
「京都・南座は、あの地が歌舞伎発祥の地(劇場すぐそばの四条河原は出雲阿国が初めて踊った地とされる)といわれていますので、そこでの歌舞伎興行、特に『顔見世』というのは、本当に大事な大事な存在ですね。でも、緊張する場なんです。客席には古くからご覧になっている方もたくさんいらっしゃいますし、育てていただいてる場所でもありますので、なくならないようにしないといけない、大事に守っていかなきゃいけない、そういう思いがあります。少しでも多くの方に観に来ていただき、続くことを願っています」
新型コロナの状況は予断を許さないが前を向く。
「歌舞伎の世界でも、この状況で何ができるかということで、方法を探して前に進んでいます。勇気や夢、ファンタジーの世界を用意していますので、足をお運びいただきたいです」
◆京の年中行事 當る寅歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎
期間 2021年12月2日(木)~23日(木) (期間中休演日、貸切日あり)
会場 京都・南座
・第一部10:30~ / 第二部14:30~ / 第三部18:00~
問い合わせ チケットホン松竹 電話0570-000-489(10:00-17:00)
【京都・南座 (松竹 公式サイトより)】