【中将】 人ってどうしても身近な人を傷つけずにいられない生き物なのかもしれないですね……。なんだか深刻な話になっちゃいましたが、軌道修正して昭和ポップスとジェンダーの話題に戻りますと、1969年にリリースされた奥村チヨさんの「恋の奴隷」という曲も歌詞のセンセーショナルさが光ります。
【橋本】 「悪い時はどうぞぶってね あなた好みの女になりたい」……「カサブランカ・ダンディ」も凄いなと思いましたが、「恋の奴隷」はもっと凄いですね。現代の恋愛スタイルではあり得ない感じです。
【中将】 さらに10年昔の曲ですからね。当時でも「そこまで言う!?」という感じがあったから話題になったわけですが、たしかに最近の若い女の子からすると意味わからないと思います。
【橋本】 お歌も上手いし感情こもってマゾっ気出まくってましたが、勘違いしちゃうファンはいなかったんでしょうか?
【中将】 ストーカーみたいに付きまとうファンが増えて奥村さんは迷惑されたそうですね……。ですが、これが大ヒットしたので奥村さんは続けて「恋泥棒」(1969)「恋狂い」(1970)という“恋3部作”をリリースします。全曲みごとにマゾっぽい(笑)。一連の作詞を手がけたのはなかにし礼さんですが、作家から渡された曲を完璧に歌い切ろうという奥村さんの歌手魂が光ります。
【橋本】 当時はまだまだ歌手が自分で歌詞や曲をつくるケースは少なかったんですか?
【中将】 ないことないけど少なかったですね。作家やレコード会社が完全にプロデュースして作るのが当時のヒット曲でした。
菜津美ちゃんは半熟BLOOD(※橋本が所属するスリーピースバンド。橋本はボーカルを担当)の活動では自分で歌詞を書いてるけど、ジェンダー的なことを意識して作ったことはありますか?
【橋本】 ジェンダー的と言えるか微妙ですが、男性同士の恋愛を妄想して作ったことはありますね。ポップな曲なので少し聴いただけではわかりにくいと思いますが、気付いてくれる人もいます。
【中将】 最近は『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)みたいに同性愛をテーマにしたドラマも増えています。男女の性差がフラットになって、同性愛のようにこれまでタブー視されがちだった要素も創作に自然に取り入れられるのが令和の20代の感覚なのかもしれないですね。