神戸市北区の宅配物配送センターで2020年10月、男女2人を死傷させたとして殺人・殺人未遂などの罪に問われた元パート従業員の男(47)の裁判員裁判で神戸地裁は3日、懲役27年の実刑判決(求刑・懲役28年)を言い渡した。
男は2020年10月6日未明、 配送センターの駐車場で、出勤直後の女性従業員(当時47)の脇腹を刃物で突き刺して殺害、男性従業員(61)を殺害しようとしたとされる。男性は抵抗した際にけがをした。この時、配送センター内や近くの路上で車を運転し、トラックや、通報を受けて現場に駆け付けたパトカーなど計15台にぶつけて損壊させるなどした。男は起訴内容は認め、量刑が争点だった。
検察側は、男が事件前日、男性従業員から「荷物の扱いが雑だ」と注意されてもみ合いになり、仲裁した女性にけがをさせたことで会社から退職を促されたと経緯を説明。「一方的に好意を抱いていた女性から裏切られたと思い込み、男性の指導にも怒りを募らせた」と指摘、「被害者に落ち度はなく、いきなりトラブルの関係者を殺害しようとするのは言語道断だ」と述べた。
一方、弁護側は、男が荷物の扱いが粗雑であることなど、日常の仕事ぶりを良しとしない会社側の不当な解雇通告により、仕事を奪われたことが犯行の引き金で、実行をためらうなどの葛藤もあったとし、懲役17年が相当だとしていた。また、不当解雇だからといって男の犯行が正当化されたり、刑が減刑されることではないが、「猜疑心(さいぎしん)=不満や誤解を生む方法」は回避できなかったのかと問いかけた。
判決で神戸地裁は、検察側の一連の主張は「合理的」と判断。男の強い殺意や、計画性の高さを指摘した。そして被告人質問で男が「(負傷した)男性について、何とも思っていない」と述べたことや、解雇についての不満ばかりを強調したことなどに触れ、反省の気持ちが見受けられないと述べた。そして「2人を殺害しようとした犯行はあまりに短絡的で(被害者側に)何の落ち度もない」と指摘した。
一方、男を解雇するまでのプロセスで、会社が男に弁明の余地を与えなかったことなどについては酌量の余地があるとして、求刑から1年差し引いた懲役27年とした。