ここでいう「下略」は、「こんにちは」という言葉のあとに、その時や相手に応じた表現が続いた、という意味です。たとえば…
「今日(こんにち)はお日柄もよろしく、お元気ですか?」とか、「今晩はとても冷えますね」とか続いていたのです。そして時が進むにつれ、後に続いていた機嫌伺いや時候に絡めた挨拶が省略されていきました。前出の宮沢賢治の『雪渡り』は、大正期後半(1921年12月と翌年1月)に雑誌『愛国婦人』に掲載されたもの。少なくともその頃までは、後に続く挨拶の言葉も省略されずに使われていたと考えられます。
それにしても、時候や相手にあわせて挨拶が交わされていたというのは、とてもうらやましいです。わずかな時間でも相手との出会いを大切にしようとする思いをそこに感じるからです。挨拶の簡略化が悪いとは言いませんが、皆さんはいかがでしょうか?
言葉は時代とともに、その意味も使い方も変化します。「ことばコトバ」では、こうした言葉の楽しさを紹介していきます。
(「ことばコトバ」第41回 ラジオ関西アナウンサー・林 真一郎)