医学研究に役立てるため、故人の遺志により無条件・無報酬で提供された男性の遺体(献体)について兵庫医科大学(兵庫県西宮市)が、遺族に連絡なく火葬し、約6年半返還を怠った問題で、兵庫県宝塚市に住む遺族が精神的苦痛を負ったとして同大学を相手に1100万円の損害賠償を求め、22日神戸地裁に提訴した。
2014年2月、82歳で亡くなった男性は生前の希望通り兵庫医科大に献体した。兵庫医大のホームページには、手続きについて「献体の解剖、火葬の際は遺族に文書で連絡する。遺骨返還までに約1年半~3年を要する」と記されていたことから、遺族はしばらく連絡を待っていた。
6年半経った2021年10月、長女(64)が大学側に問い合わせたところ、はじめは「わからない」と答えるのみだった。その数日後、解剖実習は2015年1月に実施され、その年の4月に火葬、その後、大学の遺骨安置室に置かれたままになっていたことが判明。男性以外の2人の献体についても、遺族への連絡が滞っていたこともわかった。
大学は遺族に「当時の担当者(すでに退職)が規定の業務手順を逸脱し、遺族への通知を怠った。後任の担当者に十分な引き継ぎをしていなかった」などと説明したという。
大学側からは2021年10~11月、男性の遺骨返還と損害賠償(20万円)の支払いの申し出があったが、長女は拒否している。遺骨が帰ってくるのを待っていた男性の妻や弟はこの間に亡くなった。
22日、神戸市内で会見した長女は「普通ならば、遺体を返還せずに放置するなど考えられない。本当に父の遺骨かどうか分からない。大学側は、火葬した後であることを理由にDNA型鑑定ができないと言われ、他の遺族からは他人かもしれない遺骨を墓に入れることはできないと言われた。ひとりの市民だった父が、知人の医療関係者に影響されて医学の進歩のために献体を申し出たのに、モノと同じようにずさんな処理をされた。生きた人間と同じように扱ってもらいたかった」と困惑し、怒りを隠せなかった。
遺族はその後も、DNA鑑定を実施するよう大学側に話し合いの場を求めたが応じていないという。