奈良・東大寺二月堂の「お水取り」が始まりました。「修二会(しゅにえ)」の行のひとつです。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)によると、修二会とは…
「寺院で、陰暦二月初めに国家の隆昌を祈る法会(現在は三月)。特に、三月一日から十五日にかけて行われる東大寺二月堂の法会は御水取りの行事が十二日に組み込まれていて有名。修二会月会。(中略)」などとあります。
つまり修二会とは、寺院の行事のことです。東大寺のホームページによりますと、この修二会の正式名称は「十一面悔過(じゅういちめんけか)」。「われわれが日常に犯しているさまざまな過ちを、二月堂の本尊である十一面観世音菩薩の宝前で、懺悔(さんげ)することを意味する」のだそうです。修二会では、練行衆(れんぎょうしゅう)と呼ばれる、行に参加する僧侶たちが国や世界の平和を祈願します。
そのなかの行(ぎょう)のひとつであるお水取りは、文字通り「水」(香水・こうずい=仏様に供える水)を取る行事です。二月堂のご本尊である十一面観音にお供えするためのお水取りは、法会期間中の3月12日深夜、正確には13日の未明に行われます。
お水取りと呼ばれるようになったのは、二月堂の前の小さな建物「閼伽井屋(あかいや)」の中の井戸「若狭井(わかさい)」で水を汲み、十一面観音にお供えすることからです。
歴史は古く、東大寺創建の奈良時代、大仏開眼の年から1回も途絶えることなく続いていて、今年で1271回目です。ところが現在は、修二会の期間中、燃えるたいまつがお堂の欄干から突き出されて回される行為「お松明(たいまつ)」を「お水取り」と思っている方が多いようです。
実は、汲み取られる水を送る行事「お水送り」もあります。行っているのは、奈良市と姉妹都市の福井県小浜市。3月2日に、市内の神宮寺の井戸から汲み上げられた香水を「鵜の瀬(うのせ)」と呼ばれるところへ運び、そこから遠敷川(おにゅうがわ)に注ぐというものです。注がれた水が二月堂の若狭井から湧き出る、と言われています。
お水取りが終わると、関西にも春が来るとされています。「3月ならもうとっくに春やん」と言われるかもしれませんが、3月は、旧暦でいうところの2月。二十四節気のひとつ「立春」の時期は、旧暦にするとちょうどお水取りの頃です。先人たちの季節や言葉への思いは、やはり素晴らしいものがあります。