人の認識の不確かさや、社会で見過ごされた存在に注目した作品を生み出す飯川雄大の作品展「デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」が、神戸市中央区の兵庫県立美術館のアトリエで開催されている。2022年3月27日(日)まで。
アトリエに入ると、「新しい観客」という文字が飛び込んでくる。ロープと滑車で壁一面に描かれている。そしてアトリエの中にはいくつかのハンドルも。このハンドルを動かすと文字に小さな変化が起こる。じーっと見つめていないと気づかないほどのじわじわとした変化だ。
兵庫県立美術館の「今最も注目すべきと考える作家を個展形式で紹介する」プログラム「チャンネル」。12回目となる今回は、神戸市出身の飯川雄大氏を取り上げた。
飯川氏は美術館に来た人を「いつの間にか作品の送り手」に取り込もうと、様々な仕掛けを用意した。ハンドルもその1つ。そのハンドルによってアトリエ内で「何か」が変化する。変化はアトリエ内だけにとどまらず、県立美術館内の「どこか」でも起こる。「どこか」での変化は気づく人もいれば素通りする人もいる。でも、その変化が別の場所で、しかも「観客」による操作で起こっているとは……。そして「観客」も他の場所で変化が起こり見ている人がいるかも、とは思いもしないだろう。
「壮大なおもちゃ、いたずら」と飯川氏は言う。「鑑賞者はいつの間にか送り手となり『ゼロ人、もしくは、ひとり以上の観客にむけて』発信することで、新しい観客を生み出すかもしれない」と話す。
もう1つ、こんな試みも。アトリエには、カバン「ベリーヘビーバッグ」が置いてある。これを大阪市北区の国立国際美術館に運んでもらおうというものだ。美術館から作品を持ち出すことなんてありえない。外に出たことで作品は荷物になり、ひとつの景色となる。この移動のプロセスがアートプロジェクトであり、荷物が街を移動することが作品になると飯川氏は言う。飯川氏は国立国際美術館で開催中の「感覚の領域 今、「経験する」ということ」に出品しており、その会場へ「ベリーヘビーバッグ」を運んでもらう。そして大阪から神戸=県立美術館へも「ベリーヘビーバッグ」を運んでもらう。準備が整い次第、このプロジェクトはスタートする予定だ。
「小さい時からいたずらが好きで、友だちのカバンにモノを入れていた。気づくときもあれば、気づかず、開けたときにハッとした、その驚きが面白い。ひとりでも多くの人にその感覚を味わってほしい」(飯川氏)
2月26日にスタートした飯川雄大展。タイトルとなった「デコレータークラブ」は、世界中の海に生息し、周辺の環境に擬態する性質を持ったカニ(Decorator Crab)のことを指す。飯川氏は子どもの頃サッカーのコーチに言われたという「メイクスペース・ユーズスペース」が作家活動にも通じるとし、「仕掛けづくり」を進める。美術館に「到着したとき」の風景と「帰りに見た」風景が違うかもしれない。それはなかなか気づくことができない小さな変化かもしれないけれど。
◆注目作家紹介プログラム チャンネル12
「飯川雄大 デコレータークラブ メイクスペース、ユーズスペース」
会期 2022年2月26日(土)~3月27日(日)
会場 兵庫県立美術館ギャラリー棟1階アトリエ、館内各所
観覧料 無料
開館時間 10:00~18:00
休館日 月曜 ※ただし3月21日(月・祝)は開館。22日(火)は休館
【兵庫県立美術館 公式HP】