【中将】 そこでスパッと思いきれちゃうのが菜津美ちゃんらしいです(笑)。次にご紹介する曲も、駅も舞台に過去への別れと新たな出発を歌った名曲です。イルカさんの「なごり雪」(1975)。
【橋本】 超名曲ですね! でも今ってLINEやSNSがあるし交通も便利だから、なかなかこういう感じにならないですよね。「東京で見る雪はこれが最後、でもないやろなぁ……」みたいになっちゃう(笑)。
【中将】 別れても身体の関係だけ残っちゃうカップルも多いですしね(笑)。恋愛に関しては昔のほうが純粋だしドラマティックですね。
そう言えば「なごり雪」という言葉は、この曲を作った伊勢正三さん(シンガーソングライター、「かぐや姫」や「風」で活躍)の造語だと知っていましたか?
【橋本】 えー! 美しい表現だしイメージも湧きやすいし、普通に昔からある言葉だとばかり思っていました!
【中将】 当時は「なごりの雪」というような表現はあったけど「なごり雪」は耳なじみがなくて、批判もあったそうです。今では国語辞典にまで載っている言葉なので、まさに伊勢さんは日本の文学表現を切り開いた人というわけですね。
【橋本】 素晴らしいです! 作詞家冥利に尽きますね。
【中将】 ちなみに歌詞に出てくる駅前は伊勢さんの出身地、大分県津久見市の津久見駅をモチーフにしているそうです。旅行や電車好きの方は実際に訪れて「なごり雪」に思いをはせるのもいいかもしれませんね。
次に紹介するのは奥村チヨさんの「終着駅」(1971)。奥村さんは1969年に「恋の奴隷」でブレイクしたものの、「悪い時はどうぞぶってね」というマゾすぎる歌詞のせいか、ストーカーみたいなファンが急増して個人的につらいことが多かったそうです。そこで、イメージを塗り替えようと満を持してリリースしたのがこの曲。
作曲家として当時駆け出しだった浜圭介さんが作った曲なんですが、スタッフ経由でそれを聴いた奥村さんが気に入りレコード化に至ったわけです。結果、オリコンウイークリーランキング3位、1972年度の年間ランキング21位の大ヒットをおさめました。のちに奥村さんと浜さんは結婚し、今も仲良く暮らしておられます。
【橋本】 あらま! すごい出会いですね!
【中将】 「終着駅」がお二人には「始発駅」になったわけですね。
【橋本】 うまいことおっしゃる! 「過去から逃げてくる」というフレーズは「恋の奴隷」という過去から逃げてきたわけですね。