学校でも家でも、BL作品が好きなことを秘密にしているうららにとって、雪と喫茶店で話したり、雪の家を訪ねて、縁側でお茶を飲みながら心ゆくまでBLの話をしたりするのは、いつしか“一番楽しいひと時”になっていた。そして、雪にとっても、60歳近い年の差を超えてのうららとの会話が、元気の源になっていたのだった。
ある日、雪から、なぜ自分ではマンガを描かないのかと尋ねられたうらら。「才能がないの…」と答えたところへ、「才能がないと描いちゃダメってことはないでしょ? 人って、思ってもみない風になるものだから」と、雪がけしかける。想定を超えた雪の言葉に背中を押されるようにして、うららは、オリジナルのマンガを描き始める。そして、二人は驚くような試みに挑戦することに! それは、創作マンガの即売会“コミティア”への出展だった。
宮本信子と芦田愛菜といえば、2011年の『阪急電車 片道15分の奇跡』で、祖母と孫役で共演。この演技で芦田は、第54回ブルーリボン賞新人賞を史上最年少で受賞するという快挙を成し遂げている。その後もドラマ『Mother』(2014年/主演:松雪泰子)で脚光を浴び、ハリウッド映画デビューも果たすなど、子役から演技派へと、見事に才能を花開かせた。
一方の宮本は、『お葬式』(1984年)『マルサの女』(1987年/いずれも監督:伊丹十三)などで国内外の主演賞を総ナメにし、舞台・テレビ・映画での活躍はもちろんのこと、ジャズシンガーとしてアルバムをリリースするなど多方面で躍動。この映画の中でも、芦田と一緒にその歌声を披露している。2014年には、それまでの功績に対して紫綬褒章が授与された。
そんな二人が11年ぶりの再共演で醸し出す雰囲気は、なんとも言えずいい感じ。
うららの幼馴染の河村紡役・高橋恭平(なにわ男子)、彼が付き合っているクラスメートの橋本英莉役・汐谷友希は、ともに映画初出演。進路に悩みながらも、青春を謳歌する姿がまぶしい。
音楽を担当したのは「T字路s」(てぃーじろす)という2人組で、こちらも、映画音楽の制作は今回が初めてという。代表曲の一つ「これさえあれば」を主題歌として提供するとともに、ギターとボーカル担当の伊東妙子は、うららの母親・佐山美香役で俳優デビューも果たしている。
メインキャストの二人や、生田智子、光石研らのベテランを相手に、そのフレッシュなメンバー達が見せるナチュラルな演技が、オールロケでの撮影でのびのびと捉えられているのが心地いい。