たとえば、北海道や沖縄の人が、「いちりつあまがさき」「いちあま」と聞いたなら、「なぜ、『しりつ』じゃないのか」と疑問を持つでしょう。地元の言い方は大切で尊重したいけれど、放送を全国に届けることを考えると原則に従う、ということにならざるを得ません。そこに、伝え手のジレンマがあります。「本当はこう言いたい、けれどもそれは難しい」。そんな思いは常にあります。
余談ですが、神戸市にはかつて2つの神港(しんこう)高校がありました。1つは「私立神港学園高校」。もう1つは「神戸市立神港高校」。文字では「神港」と「市神港」とすれば理解できますが、ラジオ放送ではそうはいきません。そこで、私立の方を「神港学園」と言い、もう一方を「市立神港(いちりつしんこう)」と呼ぶようにしました。「しりつしんこう」とすると、市立か私立か混乱させてしまうというのが理由です。
両校が野球で対戦することもありましたので、その時に中継があったら、実況アナ泣かせとなっていたかもしれません。その後、市立神港高校は市立兵庫商業高校と統合され、現在は「市立神港橘(しんこうたちばな)高校」となっています。
全国にも、こうした地元ならではの呼び方やアクセントはたくさんあるでしょうね。放送現場は常に悩み、考え、よりわかりやすく伝える工夫を続けています。
(「ことばコトバ」第67回 ラジオ関西アナウンサー・林 真一郎)