空手東京五輪代表の植草歩選手が、27日にラジオ関西で放送された『武田梨奈のこだわりな時間』にゲスト出演。海外の子どもたちへの空手指導や今年の海外遠征でのエピソード、昨年の東京五輪で感じた思いなどを、子どもの頃から空手に取り組み続ける女優・武田梨奈とのトークで明かした。
近年、セミナーの依頼を受けて、海外の子どもたちに空手の指導を行っている植草選手。ただし、現地では、練習時間が1~2時間と限られているため日本でよく行われている「数稽古」ができなかったり、日本であれば師範やコーチの話を立って聞くのが慣例だが、海外だと選手たちはフランクに座って話を聞き、なかには地べたで頬杖をつきながら聞く選手もいるなど、文化の違いに最初はとまどったよう。
それでも、海外の文化を実感できたり、そこでの子どもたちとの触れ合いがよかったと話す植草選手。その経験が日本でもいきているようで、日本の子どもたちに空手を教えるときには、まずは「試合、どうだった?」など問いかけるところから始めて、考える時間を作ったり、自分で気づかせることを心掛けているという。「十人十色ということもあり、自分の当たり前と、その子たちの当たり前は違うから、まずは話を聞くようにしています。指導者としてはまだまだ駆け出しですが、(あれこれと)与えすぎてもいけないのかなと最近は思っています」。これまで空手の第一人者として突っ走ってきた自らの経験も、そうした指導のきっかけになったようだ。
また、植草選手は東京五輪のあと、海外で空手のトップレベルの選手たちと練習を行い、多くの話をするなかで、勇気づけられることがあったという。
「オリンピックで優勝した選手とオランダで一緒に練習する機会があったんです。いつもだと大会でちょっとしか会わなかったり、大会前だとお互いピリピリしているから『元気?』『頑張れよ』みたいな(挨拶だけの)感じなのですが、練習でずっと一緒にいるから、移動のホテルまで歩いているときや、食事のときなどに話すことがあって。そこで、『アユミは空手を続けるの?』と聞かれたとき『迷ってる……』と答えると、『なんでだよ、こんなに強いのに』『アユミよりほかにいないだろう』『アユミはスーパーだよ!』って話してくれて。表現の仕方が日本人とは違うのですが、そうやって言ってくれるのがうれしくて」(植草選手)
一方で、その選手から受けた叱咤激励が、植草選手自身に大きな影響を与えたそうだ。
「『アユミはいつも試合が終わったら、勝ったらめっちゃ喜ぶ、負けたら大泣きする。なぜそんなに勝負の一個の勝ち負けに感情を揺らがすんだ』と言われたんです。『いや、自分だってそうだったじゃん』と返すと、『僕もそうだったけど、それで負けてキレてしまって、次の試合が出場停止になって、それで反省した。メンタルコーチを付けて、話しすぎるというぐらい話した。そのときに僕が思ったのは、僕が空手の競技をしているのは、人生の1ページの中でのほんの少しであって、この勝った負けたに、その日は正直落ち込んだり喜びがあっていいと思うけど、それはダラダラとつなげてはいけない。アユミはオリンピックの負けをいまだにダラダラと続けている。アユミが次に幸せになるためのステップをちゃんと歩まなければいけないのに、アユミの人生を勝負の勝敗だけでずっと続けてしまっているのがもったいないよね』と。その話が心に響いたんです」(植草選手)
そういった話を受けて、気持ちも吹っ切れたのか、植草選手は5月にモロッコで行われた「KARATE 1 プレミアリーグ」ラバト大会の組手+68kg級で優勝。国内復帰戦となった6月の「第1回全日本空手道体重別選手権大会」組手+68kg級では準優勝という成績を残した。今後は9月と10月に行われる「KARATE 1 プレミアリーグ」に出場予定で、現在世界ランキング5位の植草選手は、1位への返り咲きのために、「そこ(2大会)で優勝することを目標に今はやっています」と抱負をコメント。「オリンピックが終わって、今は全くプレッシャーは感じていないです。いろんなものを勝手に自分で背負っていただけだったんだと今は思っています」と前を向く植草選手。改めて今年の海外遠征で得たものの大きさを次のように語る。
「先ほどのオリンピックで優勝した選手からも、『アユミが幸せだったら、アユミの周りの人はみんなハッピーになるよ。勝って喜んでくれるのもそうだと思うし、負けてもアユミがやりきったとか、そこまでやってきた過程でハッピーだったと思えるなら、アユミの周りがハッピーになるから。(今までの)アユミは全部、軸が外なんだよ』ということも言われて、『ああ、そうだな』と思ったんです。今年、3か月間、海外を回っていて、すごく悔しいことも、うれしいこともあったりしましたが、日本と違う文化を学びながら、日本と違う人たちの表現の仕方を感じて、成長できた日だったなと思います」(植草選手)
この植草選手の話に、「私は現地に行っていませんが、一緒に学べたような気持ちになっています。ありがとうございます!」と感銘を受けていた武田。最後に、「植草さんがこれからも空手を続けていく上でこだわっていきたいことはありますか?」と問いかける。
これに対して、「自分らしさですね。自分の幸せというのは、自分にしか分からないもの。自分らしく、自分の表現や色を出していくことが、最後、自分の強みになるのかなと思っています」と答えた植草選手。その思いに至ったのは、悲願のメダルに届かなかった東京五輪での経験が大きかったと話す。
「オリンピックの時も、自分の(得意とする)中段(突き)を信じれなかった。自分が『中段しかない』と思ってしまい、ほかの選手や若い子たちを見たときに技が多彩で、そこですごくネガティブになってしまったんです。オリンピックでもきちんと中段でポイントをとって、そこの自分のポジティブな良さがあるからこそ、ほかの技につながっていくのに、『私は中段しかないから、中段だけじゃダメだ』になってしまっていた。でも、それができるからこそ、その人の良さがあって、そこに足してオプションが増えることで、またより勝つことができたり、勝ち方が変わってくるので。勝負ごとですが、人生の選択が変わるとかになると思うので、自分らしく個性をいかすことが、これからのこだわりかなと思っています」(植草選手)
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番組のエンディングでは、武田が2回にわたった植草選手とのトークを振り返り、「植草選手のお話をずっと聞いてみたかったので、今回深いお話をたくさんできて、私自身もとても貴重な時間になりました。 空手の魅力を現役の選手からお話していただくことで、より世界中の皆さんに空手の魅力を知ってもらえるんじゃないかなと思います」と述べ、現役の空手トップランカーとの対談に感慨ひとしおの様子。「空手は本当に人生に通ずるものがたくさんあると思っているので、もし興味がある方がいたら、ぜひこれからも空手を見て、機会があれば体験していただけたら、よりうれしいです」と呼びかけた武田は、「これからも植草選手を応援したいと思います」とエールを送っていた。
『武田梨奈のこだわりな時間』
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