【放送のことば④】「辞職」「辞意」「辞任」…これって、何がどう違うの? | ラジトピ ラジオ関西トピックス

【放送のことば④】「辞職」「辞意」「辞任」…これって、何がどう違うの?

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 ラジオ関西の林真一郎アナウンサーが届ける言葉コラム「ことばコトバ」。放送ではたくさんの言葉を使います。とても自由に話しているように見えたり聞こえたりするかもしれませんが、そこにはいろいろな決まりがあります。「放送のことば」シリーズ第4回、「辞意表明」という言葉です。

 先日、中村警察庁長官と、鬼塚奈良県警本部長の会見がありました(肩書きはいずれも当時)。2つをめぐる報道の言葉を見ていてあることに気付きました。「本人が会見したにもかかわらず、なぜ報道機関によって表現がこんなに違うのだろう」。まずご本人の言葉です。

 中村氏「職を辞する決意をした」
 鬼塚氏「職を辞して責任をとるべきだと判断した」

お二人とも「職を辞する」という表現です。

 各紙の表現はどうなっていたのでしょうか。(代表的見出しなどを抽出しています)

 中村氏「辞職願い(朝日)」「辞職表明(毎日)」「辞意表明(読売)」「辞職の意向(産経)」「辞職へ(日経)」「辞任の意向(神戸)」「辞任の意向(共同通信)」

 同じような言葉が並んでいますが、少し表現が異なります。

 鬼塚氏「辞職願い(朝日)」「辞意表明(毎日)」「辞意表明(読売)」「辞任表明(産経)」「辞意表明(日経)」「辞意表明(神戸)」「辞任の意向(共同通信)」

 こちらもよく似ていますが、中村氏と鬼塚氏それぞれで表現が異なっている新聞もあります。こうした傾向は放送でもみられました。

 各社の用語の使用基準もあるかと思いますが、それぞれの言葉の意味は何か、広辞苑第七版(岩波書店)を開きました。
『辞意』…3番目の意味として「辞職または辞退の意向。」 
『辞職』…「職を自分からやめること。」
『辞任』…「任務を辞退すること。今まで従っていた職務を自分の意思でやめること。」
『意向』…「心の向かう所。おもわく。(どうするかの)かんがえ。志向。」
『表明』…「考えや決意をあらわして明らかにすること。」
などとありました。

 似たような表現だけれども、意味は違う。各社はそれぞれの基準で見出しを考え、報道しています。しかし、「意味はわかるけれど、何で長官と本部長の表現が違うんやろう」と思う人がいるかもしれません。私も疑問がわきました。「今の肩書き(職)は辞めるけれど、警察に残る可能性がある」「完全に辞めて組織にも残らない」。会見段階では、これらがはっきりしていなかったため、表現が異なったのではないだろうか、そう考えました。その後、後任人事が発表され、お二人とも「退職」とあり、その後のポストに関して表記はありませんでした。つまり、組織には残らない、ということが初めて正式にわかりました。

 今回の報道を通じて感じたのは、わかりやすい言葉を使っているようで、実のところはどうなのか、よくわからないということです。

 役所独特の言い回しや表現、そして報道する私たちの伝え方。なかなか「スッキリ」とはいかないですね。放送では、「いかにわかりやすくお伝えするか」を、常に考えていますが、今回の場合は、必ずしもそうではなかった、と反省しています。では、こうした場合、どのような表記が一番良いのか。難しいです。皆さんに「スッキリ」してもらえるよう、これからもよりわかりやすい表現を考えていきます。

(「ことばコトバ」第68回 ラジオ関西アナウンサー・林 真一郎)

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