藤山直美は誰もが認める実力派俳優である。そして、上方喜劇の天才役者として名をはせた藤山寛美(1929~1990年)の娘でもある。寛美の33回忌に当たる本年、直美は父を追善する舞台に立っている。5月の大阪に続き、7月の東京公演も大盛況のうちに幕を下ろした。そして10月、追善公演の最後を飾る京都四條・南座の「藤山寛美 三十三回忌追善 喜劇特別公演」で、父も演じた傑作喜劇に出演する。
開幕前、直美が意気込みや父への思いなどを語った。
直美が演じる「はなのお六」は、寛美の当たり役の一つ「はなの六兵衛」の六兵衛を女性にした物語。松竹新喜劇の名作の一つで、元は上方喜劇の祖、曽我廼家五郎が書いた伝統ある作品だ。
大和から江戸へやってきた田舎娘のお六が人並み外れた嗅覚を武器に、藩主の危機を救うストーリーで、随所にある歌舞伎的な演出が見どころ。市村萬次郎、中村亀鶴ら歌舞伎俳優も出演する。直美は「歌舞伎役者が女の役者と共演することはほとんどない。良き化学反応になれば」と期待を寄せる。
直美がとくに好きなシーンは「だんまり」。暗闇の中、手探りで大切なものを奪い合う歌舞伎独特の演出で、お六の大切なものは、食べようとしていた「おまんま(ごはん)」であるのが喜劇らしい。「だんまりになったら、うれしくなる。歌舞伎の匂いがするから」と瞳を輝かせる。
少女時代から歌舞伎が好きだった。幼少期から日舞を習い、初舞台は2歳半。「ずっと邦楽を聴いていたから、歌舞伎はもともと遠い世界ではなかった」。中学生になると三代目市川猿之助にはまった。「お父さんの芝居より歌舞伎を見に行っていた」と笑う。
京都で生まれ育った直美にとって、南座はとりわけなじみ深い劇場。幼い頃、南座の隣にあった玩具店でおもちゃを買ってもらったこともある。その後も「学生服のまま顔見世に行ったり、劇場内のお店でクリームソーダとオムライスを食べたり」。懐かしい記憶が次々に浮かんでくる。
寛美にとっても南座は特別な場所だったようだ。「父は、『どこが怖いって南座が一番怖い』と話していた」と明かす。「お弟子さんにも『師走になったら、まねきが上がる小屋やねんで。まじめにやれ』と言っていました」。
父と共演した想い出も詰まっている。寛美が亡くなる直前、平成2年2月の南座公演。「舞台も一緒、楽屋も一緒、帰ってからも一緒。一番長いこと親子でいた時間だった。半月ほどだったが密度が濃かった」と振り返る。
父の役を継いで感じるのは、「やはりこれは男のバージョン。女でやり続けるのはいいことではない。私が生きている今はやらせてもらっているが、はよこの芝居を男の人に返さなあかんと思っています」。その思いの中には、父への尊敬の念、さらには父より前の上方喜劇の先人たちへの深いリスペクトが込められている。
◆「藤山寛美 三十三回忌追善 喜劇特別公演」
会場:南座 〒605-0075 京都市東山区四条大橋東詰
日程:10月1日(土)~23日(日) 3、11、17日は休演
観劇料:1等席13,000円、2等席8,000円、3等席4,000円、特別席14,000円
予約、問い合わせ:チケットホン松竹、電話0570-000-489
※9月9日(金)午前10時から電話、Web受付開始
松竹公式サイト
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/minamiza_20221001/