【中将】 当時の安全地帯はアルバムを作るたびに伊豆のスタジオに何か月も籠っていたみたいです。だからこれだけ練り込んだバンドサウンドが作れたんですね。
【橋本】「安全地帯III〜抱きしめたい」は「安全地帯Ⅱ」と比べてどんな変化があるんでしょうか?
【中将】 曲の世界感がより洗練されてますね。いかにも1980年代のお洒落な大人の恋愛……玉置さんの歌い方やサウンドももちろんだけど、松井さんの歌詞にもより磨きがかかっています。たとえば「yのテンション」。
【橋本】 これまでの曲と全然違う曲調だけど、たしかにお洒落ですよね。
【中将】 歌詞のお洒落さはこの時期の安全地帯を語る上ですごく重要だと思います。都会で遊び疲れてベッドイン直前のカップルみたいな……(笑)。「Lazy Daisy」なんて「内緒なんだと ジンで ことばを くちうつし」ですからね。松井さんの歌詞は、1970年代に主流だった情感たっぷりのドラマチックなスタイルとは正反対に、あっさりポップ。当時としてはすごく斬新なスタイルでした。
【橋本】 ジンを口移しされたら吐き出しちゃいそうだけど(笑)。でもこの曲もエロかっこいいというか、すごくお洒落! クオリティー的にもシングルやCMソングになっても全然おかしくないと思いました。
【中将】 今ほど情報がない時代だから、地方の田舎でこんな曲を聴いてしまった少女たちは玉置さんの都会的なムードにメロメロになってしまったそうです。学校では丸坊主の男たちが虫を追っかけてるわけですから。
【橋本】 (笑)。
さて、これまで2枚のアルバムを紹介していただきましたが、次はどんなアルバムになるのでしょうか?
【中将】 次は約1年後の1985年11月にリリースされた「安全地帯IV」からお届けします。オリコン・ウイークリーランキング1位、1986年度年間ランキング1位、累計セールス92.9万枚の大ヒット。「悲しみにさよなら」「碧い瞳のエリス」といったヒットシングルが収録されていますが、やっぱり他の曲もイイんです。「彼女は何かを知っている」を聴いてみてください。
【橋本】 これもシングル級のできばえですね! イントロの高まり感もすごい!
【中将】 サビで差し込まれてるブレス音もいいですよね。この時期の安全地帯は基本的に玉置さんがコーラスも吹き込んでいるんだけど、それがまた独特のセクシーさや癖になるアレンジ作りに貢献しています。
【橋本】 他人が入れるコーラスの魅力もありますけど、この場合は本人で正解ですね。玉置さんは声が楽器……もう名器!