今に続く缶ビールの原型はなんと60年以上も前に作られていたのである。ただ、当時のビール業界では瓶入りが圧倒的主流だったそうだ。
「缶ビールが広く普及したのは自動販売機の登場かつアルミ製の缶が開発されたことによります。1971年、当社は日本初のアルミ缶入りビール『アサヒビール〈アルミ缶〉』をリリースしました。軽く、冷やしやすく、空き缶の処理も簡単になりました」(黒田さん)
時代は進み、環境への関心が高まっていく中、プルタブの散乱が社会問題化した。ここで登場したのが、先述した「ステイオンタブ」である。
「タブの散乱問題を解決するため、開缶後もタブが固定されるステイオンタブ方式が1990年から順次導入されていきます。1991年にはタブが離れず、かつ口金の一部が中身に触れない『リテインドタブ』が登場しました」(黒田さん)
容器の進化は、利便性や環境配慮だけが理由ではない。「おいしさ」という面でも進化を続けている。
2004年、アサヒビールは飲み口が従来の商品よりも幅広く正円に近い形状である「うまくち缶」をスーパードライで展開。“飲み口の形”は“おいしさ”に深く関係するとし、科学的に解析したうえ開発されたという。また、“感性工学”に基づいて「開けやすい缶蓋」の研究もすすめた結果、2008年には「うまくち缶」と「開けやすい缶蓋」の両方の機能を持つ缶が完成。おいしくビールを飲むため、味はもちろんのこと、容器の進化もめざましい。
【感性工学】……「人間の感性」という非常に主観的かつ論理的に説明しにくい反応に対して、科学的手法を用いて価値を発見・活用することによって社会に役立てることを目的とした学問。
「缶ビールを飲むときタブを立てたまま飲む人を時々見かけますが、メーカとしてはあまりおすすめしません。タブが立ったままですと口に当たって飲みにくいので、きちんと倒すことを推奨しています」(黒田さん)
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たかが缶、されど缶。カスタマーのため細部までこだわり進化させつづける、メーカーの情熱を思い知った筆者であった。缶に限らず、ふだんなにげなく手にしているものをじっくり観察してみてほしい。何かおもしろい発見があるやもしれない。
(取材・文=宮田智也 / 放送作家)