放送ではたくさんの言葉を使います。とても自由に話しているように見えたり聞こえたりするかもしれませんが、そこにはいろいろな決まりがあります。シリーズでお伝えしている「放送のことば」。前回に続き、揺れている言葉をご紹介します。今回は「依存」です。
以前は「依存=いぞん」以外の読み方を考えたこともありませんでしたが、アナウンサーの研修していくなかで「いそん」と読むことを知りました。それ以降は「いそん」と発音してきましたが、近年は必ずしもそうではなくなってきています。
広辞苑(※1)、新明解国語辞典(※2)もともに、「イゾン」と書かれていて、その中に「イソンとも」との表記。そして「イゾン」は「異存」しかありませんでした。ところが……
NHKアクセント辞典(※3)を見てびっくり! 2つの読み方があり、先に「イゾン」、そして次に「イソン」とあり、「許容」とあったのです。つまり「『イソン』を優先し、第2の読み方として許容します」ということ。念のため、1つ前のアクセント辞典(※4)を開くと「イソン」が先で、2つめが「イゾン」。そしてイゾンは(カッコ)表記で、「場合により許される発音・アクセントまたは接頭語のついた形」とありました。つまり以前の辞典とはまったく逆になっていたのです。
NHKことばのハンドブック(※5)には、「『存』の付く語」として「(1)~ゾン (2)~ソン……依存 共存 現存 残存 併存」とあります。これは(1)を優先して使いましょう、ただし(2)でも間違いではない」という意味です。この本でも「イゾン」が先にきています。確かに放送各局のアナウンサーも、若い世代を中心に「イゾン」と発音する人が増えていると感じます。
では、どちらを使えばよいのか。「悩ましい国語辞典」(※6)に、「揺れる読み方」の一つとして、「依存」が紹介されています。それには「実は『いそん』「いぞん」どちらを使っても間違いはないのである。(中略)だが、『存』という漢字には『そん』と『ぞん』の二つの音があるため、その熟語は辞典では扱いがちょっとやっかいな語なのである。」とありました。そして「『存』の付く熟語は語によって読みがかなり揺れているので、辞典編集者泣かせの語なのである。」としています。
私たちはこうした2つの読みがある場合、昔からの読み方を優先しています。しかし、言葉は常に揺れ動き、その時々で新しい読み方が生まれ、多数となっていくことがあります。これは言葉が生きている証です。今回の「依存」もそのひとつ。全国のアナウンサーたちは、そんな揺れ動く言葉に悩み、考えながらきょうもマイクに向かっています。
言葉は時代とともに、その意味も使い方も変化します。「ことばコトバ」では、こうした言葉の楽しさを紹介していきます。
※1 広辞苑第七版(岩波書店) ※2 新明解国語辞典第八版(三省堂) ※3 NHK日本語発音アクセント新辞典(NHK出版/2016・平成28年5月25日発行)※4 NHK日本語アクセント辞典(NHK出版/1989・平成8年4月25日発行)※5 NHKことばのハンドブック第2版(NHK出版)※6 「悩ましい国語辞典」(時事通信社)
(「ことばコトバ」第71回 ラジオ関西アナウンサー・林 真一郎)