やはり職人は、普段は表舞台に出ることがない仕事です。縫製技術に自信はあっても、自分たちの縫製のこだわりや良さはちゃんとお客様に伝わっているんだろうか?と、漠然と不安に思っていました。でも、このお客様と出会えたことで、今までモヤモヤしていた心を洗ってくれたような、救われたような気持ちになりました。お客様がわざわざ催事に来てくださったこと、いつも応援してくださっていること、何をとっても感謝しかありません。
そして、このお客様との出会いをキッカケに、より一層、個別でのお客様の対応に力を入れはじめました。弊社は岡山県にある小さな町工場で、全国に店舗を出したり、営業の人材を雇用する余裕もありません。それでも自分達の会社やブランドの事を知ってくださった方には、精一杯の丁寧を込めて対応したいという想いから、電話やLINEでの問い合わせ受付を通し、お客様一人ひとりの接客を大切にしています。
中には、全てオンラインで自動化すべきだ、電話やLINEなんて非効率だと言われることもありますが、ここぞの1本を選びたい男性や、プレゼントに悩む女性からの問い合わせに対して、小さな会社がお客様のためにできる最大限の丁寧だと私たちは考えています。
この接客を続けた結果、少しずつではありますがお客様も増え、コロナ禍で絶望的に落ち込んだ売上も徐々に回復してきました。時代の変化やコロナの影響で、既存の大口発注など失ったものも大きかったですが、赤字続きだった経営もなんとか黒字に転換できるほどになりました。
確かに私たちの仕事は、だれかの食欲を満たしたり、だれかの命を繋げられるものではないのかもしれません。ましてやネクタイは時代からみると逆行しているのかもしれません。
それでも創業から54年、日々ミシンを踏み、針と糸を持ち、一針入魂でやってきたこの仕事が、だれかの心を満たしたり、だれかの背中を押すことができているんだと思っています。
今の夢は、ネットだけに頼るのではなく、やっぱり47都道府県に自社の商品を手に取って見てもらえる提携先を作ることです。そして、職人の働く環境を豊かにしていくことですね。どれだけ手間がかかったとしても、やり遂げたいと思います。
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笏本さんのツイートに、リプライでは多くの共感の声が集まりました。
「作り手として、これ以上の言葉はないですね!」
「この方が催事場に出向いてくださったから出会い、そして生涯忘れない大切なことを教えてもらえたのですね」
「一生懸命な心っていつになっても伝わるんですよね。感謝の気持ち、自分の心地よさ、大切にしたいと思います」
「いくら便利な世の中になっても、こういう対面のコミュニケーションは残していかないといけませんね。そこに『人』が存在する意味があると思います」
「見えるものが全てではなく、良いものは手触りでわかる。それを身につける人はホンモノって聞いたことがあります。さらにそれを作る人もホンモノですね!」