【中将】 ベトナム戦争は当事者となったベトナム、アメリカだけでなく世界中の若者に大きな反戦感情を巻き起こしました。谷川さんのような文化人や反体制的なフォークシンガーだけでなく、普通のポップスシンガーやアイドルまで反戦ソングを歌ったのが当時の特徴ですね。アイドルバンドとしてグループサウンズブームの頂点にいたザ・タイガースも「廃墟の鳩」(1968)という反戦ソングを歌っています。
【橋本】 こんな曲も歌っておられたんですね!
【中将】 ザ・タイガースはめっちゃアイドルっぽいイメージだけど、意外に反戦ソング多いんですよ。それだけ多くの若者が平和について真剣に考えていたんですね。この曲はそもそも「ノアの方舟」をモチーフにしたと言われていたんですが、何年か前にリードボーカルを担当した加橋かつみさんにお話聞くと「原爆投下後の広島をイメージしている」とのことでした。
【橋本】 時代的にまだ生々しすぎて直接「広島」とは言えなかったんでしょうか……。
【中将】 そうですね、ザ・タイガースが活躍した時期はまだ原爆投下、終戦から20年ちょっとですからね……。でももう少したった1974年に美空ひばりさんは広島に寄せ「一本の鉛筆」という曲を歌っています。同年に開催された第一回広島平和音楽祭に出演するにあたり制作された作品です。
【橋本】 「一本の鉛筆が あれば 戦争はいやだと 私は書く」……ストレートな歌詞が逆に響きますね。歌謡曲の王道みたいな存在のひばりさんも、こんな反戦ソングを歌っておられるとは驚きました。戦争を体験した人が多かった当時だからこそこういう曲が生まれたんでしょうか。
【中将】 ひばりさん自身も子どもの頃、横浜で空襲にあってますからね。
最近僕が怖いなと思うのは、社会に戦争を体験した人がほとんどいなくなってしまったことです。僕は今38歳でもちろん戦争を体験していませんが、子どもの頃、おじいちゃん、おばあちゃんから兵隊に行った話や戦争で身近な人が亡くなった悲惨な話を直接聞く機会がありました。今の若い人はそれすらない。戦争をロマンティックなもの、かっこいいものだと勘違いしてしまう人が増えないことを願うばかりです。
(※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2022年11月1日放送回より)