美術家であり、デザイナー、絵本作家……様々な顔を持ち、85歳になった今も自分にしかできない表現を追求する中辻悦子の、初期の作品から最新作までを集めた展覧会が、BBプラザ美術館(神戸市灘区)で開かれている。2023年1月22日(日)まで。
中辻さんは、高校入学時に父親から油絵具を譲り受けたことがきっかけで美術に目覚め、高校卒業後に入社した当時の阪神電鉄百貨店部が、阪神百貨店として独立した後に、広告デザイン(グラフィックデザイン)を担当するようになった。中辻さんは朝のお茶くみから掃除、そしてデザインの仕事と、深夜まで仕事が続くまさに「激務」だった。が、新聞広告で朝日広告賞を受賞するなど、独自性のある仕事を行った。中辻さんは「自分なりの表現ができる場所を探していた。だからどんなに忙しくても苦にならなかった」と振り返る。
中辻さんは自分自身の表現活動を大切にしたい、もっと深めたいとさらなる研鑽の場を求める。たどり着いたのは西宮美術教室。ここで生涯の伴侶となる元永定正と出会った。具体美術協会のメンバーだった元永から「人と違う独自のものを」という具体の精神に触れ、自身の思いを表現していくうちに、美術家・デザイナー・絵本作家、そして画家の妻、母と様々な顔を持つようになった。
そんな中辻さんの、その時その時の思いが詰まった作品、1960年代の初期から最新作までが、オープンになった展示室という空間で競演している。
「各年代の代表作を少しずつ集めたつもりだが、年代によってガラッと変わっている。その行間というか空間というか、時間の流れも想像し、感じてほしい」とBBプラザ美術館の宮本亜津子学芸員は話す。中には発表当時以来、初めて展示したという作品もあり、訪れた人から驚きの声も聞かれるという。
70年代の家族の写真を題材にしたシルクスクリーン。80年代のコラージュ。90年代になると、自身で張ったというキャンバスを2枚組み合わせ、切り抜いたという緊張感のある作品も。
最新作は「空間」を意識した。真ん中に大きな円。その上には大小さまざまな木片が並び、まるで街並みが広がるようだ。その中央に同じく木片を組み合わせた「人形(ひとがた)」が吊り下げられていて、1つは床に足がついている。実は円は半分しかない。置かれた鏡によって「円」に見える。「『ある』と『ない』。虚と実の世界を表現した」と中辻さんは話す。
2006年の「作品」。過去の作品だが、今一番「象徴的」な作品だという。終わりがなく無限に続く「思考」と、それを支えるものとして身体の特徴である足が描かれている。
「モノとモノとの出逢いの面白さ。面白い素材に出会うと(アイデアが)出てくる。直感的に思いつく。」こう話す中辻さん。「つくりたい、つくりたい」という思いは今も尽きることはない。
*中辻さんの「辻」は「点1つのしんにょう」
「中辻悦子 起・承・転・転」
2022年11月1日(火)~2023年1月22日(日)
BBプラザ美術館 神戸市灘区岩屋中町4-2-7 BBプラザ2F
休館日 月曜日(祝日の場合は開館 翌火曜日休館)、年末年始12月26日~1月4日