サッカー元日本代表で、2022年シーズンはJ1のヴィッセル神戸でプレーしたDF槙野智章選手(35)。12月24日深夜のテレビ番組の生放送で現役引退を電撃発表し、17年にわたったプロ生活にピリオドを打った。26日にはヴィッセルのホーム・ノエビアスタジアム神戸で「現役引退および槙野劇場第二章 開幕宣言会見」を約1時間半にわたって行い、自らの思いや今後への意気込みを語った「サッカー界のお祭り男」は、次の目標、監督になることを目指して、新たな一歩を踏み出した。
その槙野選手は、ヴィッセルに加わった今シーズン、選手としてのプレーのみならず、4月から11月まではラジオ関西のヴィッセル神戸応援番組『GOGO!ヴィッセル神戸』で月イチパーソナリティーにも挑戦。マイクを通して自らのエピソードを語ったり、アンドレス・イニエスタ選手をはじめとするヴィッセルチームメイトのロッカールームやプライベートの様子などを明かし、ヴィッセルを、そしてサッカー界を盛り上げていた。
26日の会見では、同番組でパートナーを務めた芥田愛菜美も質疑応答にチャレンジ。神戸での思い出について問いかけ、それに対して槙野選手が次のように応えている。
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――槙野さんは「サッカー選手として子どもたちに夢を与えたい」と、いろいろなところでお話しされていました。現役最後の1年を過ごしたヴィッセル神戸で、その目標は達成できましたか?
はい。ヴィッセル神戸に来て、自分の(できる)仕掛けや面白いことは何かなと思った時に、まずは「槙野シート」というのを用意させていただきました。毎試合、自分で(招待対象となる人の)テーマを決めてきたなかで、一番大切にしていたのは、今までヴィッセルに興味がなかった人、サッカーに興味がなかった人、そして、これからサッカーを好きになる、サッカー選手になりたい子どもたち、地元の子どもたちを招待するということ。僕のSNSも含めて、「『槙野シート』でサッカーを見に行きました。ヴィッセル神戸が好きになりました。サッカー選手になりたいと思いました」というメッセージをもらったときに、自分が大切にしていたこと、「子どもたちに夢を」というところを感じることができたので、それは達成できたのかなと思います。
――神戸にいたからこそ得られたものというのはありましたか?
これまで一緒にやってきた日本代表、元日本代表の選手たちとまた一緒に集結して日常をともにできたこと、ピッチで一緒にバトルできたこと、そしてアンドレス・イニエスタ選手と一緒にプレーできたことは、僕にとって、ものすごい財産です。その一方で、何よりも今シーズン、苦しい思いをしてきました。今までプロサッカー人生の中で、こんなにも苦しくて、こんなにもつらい1年を過ごしたことはなかった。ただ、そこで自分が引退するまでに、経験したことのないことを経験できない(まま終わる)より、たくさんの良くないところも経験できたことも、僕にとって、ものすごく財産になりました。これはヴィッセル神戸に来ないと分からなかったことでもあります。いろんな指導者、いろんな選手たちと触れ合うことで、こういうサッカーのアプローチの仕方がいいのかとか、必要なのかというのも感じられたのも、すごく良かったので。この神戸に来た1年間というのは、僕にとって1年以上のもの、濃いものになったかなと思います。今、質問している「あくちゃん」と、毎月一緒にラジオをやって、いろんなヴィッセルの素晴らしさを神戸の方たちに伝えることができたのもよかったと思います。
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サッカーを盛り上げるべく続けてきたパフォーマンス「槙野劇場」が神戸での1シーズンでできなかったこと、日に日にトップパフォーマンスが出せなくなったこと、「監督になりたい」という次の目標を見つけたことを、会見のなかで現役引退の要因にあげていた、槙野選手。現役ラストイヤーを過ごしたヴィッセルでは、今年前半戦でのリーグ戦開幕11試合勝ちなしというなかで、「良くも悪くも、負けたときのチームやスタジアムの反応が、僕は初めて経験したものがそこにはあった」と率直な思いも吐露。クラブへの提言を求められた際には、「今後、タイトルをとっていく、優勝する、強くなっていくためには、もしかすると、あえてプレッシャーをかける雰囲気をつくったり、チームに、選手に、フロントに(ファン・サポーターが)プレッシャーをかけていくような行動がもしかしたら必要なのかなと思う」と、言葉を選びながらコメントする場面もあった。
それでも、前半戦でわずか2勝、最下位という苦境から、後半戦で9勝をあげてJ1残留を果たしたヴィッセルのV字回復は、ファン・サポーターをはじめとするクラブに関係する人々の団結がなければ成しえなかったと述べた、槙野選手。「僕は試合に勝ったあとの『神戸讃歌』がすごい好きで、あの雰囲気がものすごい僕にとってはたまらない時間。最後まで信じて選手を後押ししてくれたファン・サポーターの力はものすごく感じていた」と、感謝の思いも語っていた。
わずか1年というなかでも、クリムゾンレッドで強烈なインパクトを残し、様々な側面でチームに貢献していた槙野選手。「これまでにない日本人の監督像というのを、自分が作っていきたい」と意気込みを語っていたサッカー界屈指のエンターテイナーが、指導者としてノエスタに戻ってくる日が来ることを、願わずにはいられない。そのときは監督・槙野智章の「槙野劇場」を見たいものだ。