――デザインをするにあたって特にこだわった部分は?
【ものりさん】 「科学的な正しさ」と「見た目や機能性のおもしろさ」をうまく両立させるということに最大限こだわっています。高分子は同じ分子の形が繰り返し続いていくので、それを化学構造式にしたものも同じように続いていくんですね。なので、デザインが繰り返し現れて長く続くものって何かな、と考えていたところ「マスキングテープだ!」と思いついたのです。
ほかにも、マステを切ったことや、切られたテープに何かの意味づけができたり、理系の人がよく目にするような有名な構造(ベンゼン環など)を多く持つ高分子の選定にもこだわり、PET(ポリエチレンテレフタレート)やセルロースを選ぶことにしました。
結果として、科学を知らなくても楽しめる一方で、科学を知っていれば知っているほどに作品の意味合いが深くなるような、科学的におもしろいものになったのではと思っています。
――理系アイテムはどのような方から人気でしょうか?
【ものりさん】 自分でも意外だったのですが、いわゆる理系の人よりも文系の人が多いです。どこからが理系・文系なのかは分かりませんが、少なくとも理科や数学が苦手であったり、理系を諦めたという人がお客様には多いです。
そもそも理系の人の分母が少ないというのもあるかと思いますが、理系科目が苦手だった人の方が、科学作品に対して純粋な憧れや驚きを抱いてくれることが比較的多いように感じています。
――「スペクトラム・キューブミニ」「スペクトラム・ムーン」など、プリズムに入った光が美しく反射する理系アイテム。構想から販売までにかかった年月は?
【ものりさん】 構想から販売まで、1年~3年かかることが多いです。現在開発を進めている3つのテーマ(新作)も、いずれも構想から数年が経過しています。
また、販売後も継続してアップデートを行っており、全体でみると試作品の数も少なくないと思います。個人レベルで研究を行っていることと特殊な外注も多いため、実は、開発には時間や費用がそれなりに掛かっており、あとで計算するとたまに「ヒュッ」となります。
――光の反射が美しいプリズムシリーズについて、特にこだわっている点、苦労した点は?
【ものりさん】 プリズムの透明度を上げるため、山梨県にある宝石研磨会社の依田貴石さんに、宝石と全く同じ手法で、一つひとつ伝統の手擦りによる加工・研磨を施してもらっています。金属パーツとの接着にも透明な何重もの化学処理を行っており、これにより高い透明度や発色を実現しています。伝統技術と科学技術を組み合わせ、まさに見えない努力を集めて製作しています。
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こだわりの科学アイテムたちには、科学者ならではの計算され尽くした魅力がたっぷりと詰められていました。
(取材・文=みねほのか)