年度末を迎え学校は卒業式や終業式のシーズンとなりました。学校によっては既に終えているところもあり、数日後に迫る入学式や新学年に心を躍らせている人も多いのではないでしょうか。そんな学校の節目にとり行われる“式典”に必ずあるのが「校長先生のお話」。
筆者が書店の教育関係者向けコーナーを訪れた際、『校長の講話集60例』といった“マニュアル本”のようなものが数冊売られているのを発見し「こんなものがあるのか!」と驚きました。マニュアル本の需要や実際に参考にしている校長はいるのかなど、小中学校の校長を経験し『心を育てる校長講話実例105』など著書を持つ松本大学教育学部・松原好広准教授に聞きました。
松原准教授の著書では「校長の話はどうあるべきか?」といった考え方や、話を伝える・聞いてもらうためのテクニック、月ごとや季節に沿った講話の実例などが紹介されています。各出版社からも同様に“校長のための本”がリリースされていますが、「こういった“マニュアル本”的な書籍を参考にしている校長は少なくない」と松原准教授は言います。
「校長は中学校だと月に一度、小学校だと週に一度は児童生徒の前に立ち講話をする必要があります。その機会が何度もやってくるわけですから、多くの校長にとって悩みの種にもなります。そんな悩みに対してマニュアル本は大きな助けになりますから、今や必須のアイテムだとも言えます」(松原准教授)
なぜマニュアル本が存在するのでしょうか? 松原准教授によると、理由のひとつに「数ある校長の仕事の中で、“講話”がかなり大きなウェイトを占めている」といった背景があるようです。
「校長は自校の教育方針や校風などを示していく必要があります。また、担任や教諭と違い児童生徒との関わりが少ない校長にとって講話の時間は絶好のチャンス。子どもたちの心に残る話題でありつつも、教員や保護者にも“なるほど”と感じてもらえる内容でなくてはいけない。講話は相当なテクニックが必要であり、とても独学で学べるものではないのかもしれません」(松原准教授)
「校長先生の話」にマニュアル本があることを知り、ありがたみが無いな……とがっかりした方がいるかもしれません。しかし、マニュアル本が浸透することで、講話はかつての『つまらない・長い・格式高い』などのマイナスイメージから脱却し、児童生徒のための大切な時間のひとつになりつつあると松原准教授は強調します。
「マニュアル本などを通じ講話のノウハウが全国に広がったことで、児童生徒が興味を持つ話をしようと努力をする校長も増えたと思います。数十年前に比べると、児童生徒にとってよりおもしろく胸を打つ話ができるようになっていると確信しています」(松原准教授)
校長たちはマニュアル本の例文を“そのまま話す”のではなく、自身の考えやエピソードなどを加えアレンジしていることがほとんどだそう。
「講話が苦手な校長だけではなく、勉強熱心な校長もマニュアル本を読んでいます。何冊も読み込み、自分の講話をより良いものにしようと取り組んでいる方も多いと思います」(松原准教授)