ウィリアムズは気分がすっきりとしました。翌日、足取り軽く市役所に出勤します。
市民課には子どもの遊び場として公園をつくってほしいという陳情が寄せられていて、これまで棚上げされていましたが、ウィリアムズはこの計画を推し進めることにします。ウィリアムズは部下たちに命じます。
「これから全員で現場へ出かける。支度をするように」
外は土砂降りの雨です。部下の一人が言いました。
「今日、行かなければなりませんか」
ウィリアムズは有無を言わせず、こう言います。
「最寄り駅まで地下鉄で、そのあと歩くぞ」
1952年に黒澤明が監督を務めた「生きる」(主演:志村喬)をもとに、 長崎県出身でイギリス人のノーベル文学賞作家カズオ・イシグロが脚本を書きました。
イシグロは子どもの頃にイギリスのテレビで黒澤監督の『生きる』を観て、強い衝撃を受けました。深くリスペクトしています。
「私が日本の背景を持つということもありますが、それとは関係なく、私は常にこの映画のメッセージに影響を受けて生きてきたと思います」(イシグロ)
また、このストーリーがイギリスでも通用するとイシグロは感じていたそうです。
今作のプロデューサーによると、日本人とイギリス人は共通して感情を表に出さないのが基本で、禁欲主義や慎み深さなどの感情をストイックに抑える力があるということです。
監督は『Beauty』で知られる南アフリカ出身のオリバー・ハーマナスです。主人公のウィリアムズを演じるのは、ビル・ナイ。彼に刺激を与えるかつての部下マーガレットにエイミー・ルー・ウッドが扮しています。
イシグロは今作で、オリジナルの『生きる』に場面を追加しています。ウィリアムズの部下として働く新人職員のシーンを大幅に増やしました。この若い部下ピーターをアレックス・シャープが演じています。また、ウィリアムズとマーガレットとの間に穏やかなラブ・ストーリーをつくりました。