人間が抱える葛藤とは イランの殺人鬼をめぐるクライム・サスペンス 『聖地には蜘蛛が巣を張る』 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

人間が抱える葛藤とは イランの殺人鬼をめぐるクライム・サスペンス 『聖地には蜘蛛が巣を張る』

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サブ5

 一方、この街で家族と平凡に暮らす男サイード。彼は妻が子どもを連れて実家に泊まる夜にバイクで街へ出かけて娼婦に声をかけ、自宅へ連れ帰って殺害していました。サイードはかつて軍人として戦っていましたが今は退役しています。戦争で死ねなかったことを「自分は殉死に値しない」として虚しさを感じていました。サイードは宗教への信仰が厚く、神に自分を認めてもらおうと犯行を繰り返していたのです。夜、モスクの周りに来て男を誘おうとする娼婦を始末することは正義で、自分の使命と捉えていました。これまで女性16人が殺されましたが、警察の捜査が消極的なためか、サイードはいまだに捕まっていません。

 真相を追いかけるラヒミは、自分が囮(おとり)となって犯人を突き止めようと考えます……。

サブ8

 監督を務めるのは、イラン出身で北欧を拠点に活動するアリ・アッバシです。アッバシ監督は、2000年から2001年にかけてイランで実際に起きた連続殺人で犯人を英雄として称える人たちがいるのを知って興味を持ったそうです。今作で監督は、女性ジャーナリストが事件の行方を追うサスペンスとして描きながら、イラン社会に根強く残る家父長制度や女性蔑視の闇を浮かび上がらせています。

 主人公のラヒミを演じるのは、イランを代表するテレビスターだったザーラ・アミール・エブラヒミです。彼女はプライベートな動画が流出する被害にあって母国で活動できなくなり、現在はフランスに拠点を移しています。アッバシ監督によりますと、彼女はこのときに経験した挫折感を今作の演技に取り入れ、存在を際立たせています。イランの文化として伝統的に残る女性蔑視について、アッバシ監督は、イランには昔から女性を憎むべき対象とする考えがあり、差別行動として現れることが少なくないと指摘しています。

 宗教的な正義感から多くの女性たちを殺してしまう男・サイード役はメフディ・バジェスタニです。

 ラヒミは事件をめぐって男たちから不当な扱いを受けながらも、めげずに強い信念を持って取材を続けます。一方、サイードは敬虔な信者として暴力を正当化し、周囲の男性はもちろん女性たちも彼を支援します。物語は犯人側の視点とジャーナリスト側の視点とを交互に追い、家族や社会のあり方、人間が抱える葛藤をスクリーンに投影しています。映画『聖地には蜘蛛が巣を張る』は、4月14日(金)公開。(SJ)

ポスター

◇映画『聖地には蜘蛛が巣を張る』(原題:Holy Spider)
※上映日程は、作品の公式サイト・劇場情報で確認を。

キャスト:メフディ・バジェスタニ/ザーラ・アミール・エブラヒミ

監督・共同脚本・プロデューサー:アリ・アッバシ

配給:ギャガ
(C)Profile Pictures / One Two Films

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