YouTubeには乳幼児に向けたコンテンツも豊富に投稿されています。『おもちゃ紹介』や『泣き止む音楽』など様々な人気ジャンルがありますが、根強い人気を誇るのが『踏切動画』というジャンル。踏切がカンカンと鳴り電車が通る実写や踏切が鳴るアニメーションなど、数種類の動画が存在し中には1億回以上の再生数を誇るものも存在します。不思議なのは、なぜ乳幼児がそこまで踏切動画に夢中なるのかということ。正直なところ、大人である筆者にはその魅力がわかりません。
踏切動画に乳幼児が熱中する理由と心理について研究する立命館大学・矢藤優子教授と、踏切アニメーションをYouTubeに投稿する「fumikiri channel」さんにそれぞれ話を聞きました。
fumikiri channelさんは2015年からYouTubeへ踏切のアニメ動画の投稿を開始し現在は200本以上の動画を投稿しています。チャンネル登録者数358万人、総再生数は驚きの20億回以上。主な内容は“踏切がカンカンと鳴っているところに電車が通る”というシンプルなアニメーションなのですが、バリエーションとしては「踏切を通る貨物列車の中からギターを演奏する動物が現れ、フルーツの英語名を歌で教えてくれる」という教育的要素がある動画や「踏切が人型合体して体操する」といったユニークな動画もあります。凄まじい再生回数を誇るfumikiri channelさんですが、投稿を始めたのは「息子が踏切に興味を示したことがきっかけ」と語ります。
「息子が実物の踏切を見て喜んでいるのを見て、自分でも踏切のアニメーションを作ってみようと思いました。いざ作った動画を見せると息子も喜んでくれたので、YouTubeへの投稿も始めて現在に至ります」(fumikiri channelさん)
当時はまだ踏切アニメの投稿は他になく、先駆け的存在だったfumikiri channelさん。類似するチャンネルが後発で増えていきましたが、fumikiri channelさんが動画を制作する上でこだわるのは「踏切が閉まり、横から何が通るのか期待させるワクワク感」や「次々と展開が進むテンポ感」だそう。また「子どもと一緒にアニメを見たり遊ぶなかで喜びそうなポイントをよく発見し、それを動画に反映している」とも。踏切が合体して体操する動画などは「突飛なことを思い付くのが得意なので、こういった発想は次々と湧いてきます。アイデアのストックはまだまたありますよ!」とのこと。再生数など、周囲の反響に関してどう感じているのかも聞いてみました。
「施設の入場の待ち時間などで、私の作成した動画を子どもに見せている人を見かけると嬉しくなっちゃいますね!」(fumikiri channelさん)
人気となった理由を「踏切のカンカン音のような、一定したリズムを小さい子どもは好むのではないか」「黄色と黒のシマシマ模様に惹かれる」と考察するfumikiri channelさん。ちょっぴり気になるのが動画の収益です。「キッズ向け動画は広告が制限されるため、収益は少ないです。ほぼボランティアみたいなものですね」と意外な事実も語ってくれました。
踏切動画に対する乳幼児の心理について、立命館大学の矢藤優子教授は「乳幼児にとって踏切は“強く憧れを抱く対象”であるから」と説明。
「乳幼児は電車などの“乗り物”を好む傾向にあります。速くて大きいそれらは、彼らにとって“強い存在”とも言えます。子どもは1歳くらいになると『両親のように強い存在になりたい』という願望が芽生え始め、自己を大きく見せるものに憧れを持つようになります。例としてわかりやすいのは『棒を持って振り回す』『縁石などに乗りたがる』など、乳幼児がよくしがちな行動。これらは“自身を大きく強く見せたい”という心理からきています。電車はまさにその心理を満たすうってつけの存在であり憧れの対象になるのです。その強者(電車)をコントロールする踏切にも憧れを抱き、動画に夢中になるのではないでしょうか」(矢藤教授)。
さらに矢藤教授は「乳幼児は様々な刺激に興味を持ち、踏切は音や動き・色など様々な要素が多いことから惹きつけられている可能性が大」と、踏切アニメを好む理由はごくシンプルであるとしています。