「大阪のお客様はある意味怖い」。歌舞伎俳優の松本幸四郎(50)が大阪松竹座(大阪市)で開かれる「七月大歌舞伎」(7月3~25日)を前に取材に応じ、公演への意気込みや歌舞伎に賭ける思いなどを話した。
今回、幸四郎が主演するのは、夜の部『吉原狐』。吉原で芸者屋を営んでいる三五郎と、三五郎の娘で、早とちりで失敗が多い芸者おきち、二人を取り巻く騒動が楽しく展開する人情噺だ。同作の上演は17年ぶり3回目で、大阪では初めての演目となる。前回の公演で、別役で出演した幸四郎は「ドラマとして面白い作品。親子の情、人と人のつながりを描きながら、歌舞伎らしい演出もある。もっと掛かってほしいと思っていた芝居だった」と満足そうに話す。
このたび幸四郎が演じる三五郎役を初めて務めたのは、祖父(八代目松本幸四郎)。さらに幸四郎の前回の役を、今回は息子の市川染五郎が演じる。染五郎が大阪松竹座の舞台に立つのは初で、幸四郎は、「(染五郎に対して)普段は説経や諭しができないので、舞台の上でやりたい」と意欲的。さらに「染五郎の役は登場人物の中でも目立つ役。前回やっていた役者さん(=現・幸四郎)は姿が良く、かっこいい人だった…」とユーモアたっぷりに続け、「なかなか難しいと思うが、それを目指してもらいたい」と、愛息に熱いエールを送った。
『俊寬』では、片岡仁左衛門が俊寬僧都を務める。「松嶋屋のおじさま(仁左衛門)の情熱的な芝居は、とても勉強になる。一緒に出させてもらって本当に幸せ」とかみしめつつ、「おじさまは本当にかっこいい。かっこいいのにさらにかっこよさを研究していて、ちょっとずるい」と、心なしかくやしそうな表情ながらも笑顔。
大阪の観客とは、「距離をとても近く感じる」という。「喜んでもらっている時、それを実感する一方で、うまくいっていない時も、ちゃんと反応が伝わってくる」。「ある意味怖い」ものの、「育ててもらえる場所」との思いも持つ。
とりわけ『吉原狐』は、「お客様との呼吸を通して、客席と一体になって進んでいく芝居」という。上方のステージで、江戸を舞台にした演目をやるのは久々で、中村鴈治郎ら上方の役者との共演も「念願だった。楽しみ」と顔をほころばせる。
今後、目指していきたい役者像は?と問うと、「古典を引き継ぎ、今の人に感動してもらうことが使命。歌舞伎のすごさを自分の体を通して見せたい」と、熱っぽい口調。同時に、染五郎ら若い世代には「お互いに刺激し合って、大きな戦力になってもらいたい。自分の限界をどれだけ遠くに持っていけるか。1つの芝居を作りながら、それぞれが輝いてほしい」と期待を寄せる。
昨年、コロナ禍の中で3年ぶりに行われた、大阪の夏の風物詩「船乗り込み」では、涙を堪えていたという。「船に乗り込んで、おはやしが流れたとたん、感激して」と、感無量の表情。
今年も船乗り込みの後、七月大歌舞伎の幕が開く。幸四郎は「役の色彩や視覚的な型など、歌舞伎を見たという実感が湧く演目揃いです」とPR。「ぜひ松竹座に時間を預けてもらって、暑さの中、ちょっとした涼風を、ファンタジーを楽しんでいただきたい」といざなった。
◆「大阪松竹座開場100周年記念 七月大歌舞伎」
会場:大阪松竹座
日程:2023年7月3日(月)~25日(火)※10日(月)、18日(火)休演
観劇料(税込):1等席18,000円、2等席9,000円、3等席5,000円
予約、問い合わせ:チケットホン松竹、電話0570-000-489