誰しも一度は見たことがある文房具といえば“フエキノリ”。中でも、黄色の容器と赤いフタ、つぶらな瞳の容器が印象的な「どうぶつのり」は、子どもたちからも大人気。
そんなフエキノリシリーズ、実は“大阪発”。生みの親は文房具メーカー「不易糊工業株式会社」(本社:大阪府八尾市)です。国民的文房具・フエキノリの歴史や商品名に込められた思いなどについて同社の渡辺さんに話を聞きました。
同社は、1886年(明治19)に創業した老舗の文房具メーカーです。1895年(明治28) に腐らない事務用のでんぷんのりとして「不易糊」が誕生しました。不易糊以前にも「姫糊」などがありましたが、いずれも翌日に腐ってしまい保存がきかなかったそうです。
「試行錯誤の結果、化学薬品『ホルマリン』を使用することででんぷんの老化・液化・腐敗を防ぎ、いつまでも安定して使用できるようになりました」と渡辺さん。ちなみに、不易糊の語源は、中国の儒学者・荀子の言葉『萬世不能易也』より命名されました。「永遠に変わることなし」という意味で、いつまでも腐らず不変の品質を誇るという意味が込められています。
時代は流れ、昭和日本の戦後復興にともない不易糊の売り上げは飛躍。特に、学童用の販売数が伸びていきます。一方で、腐敗防止に一役買っていたホルマリンは毒性の高い物質であることが懸念されていたといいます。さらに、1965年後半になると発ガン性も指摘されはじめます。渡辺さんは「ホルマリンは研究を重ねて低濃度まで落とすことには成功しましたが、無添加には至っていませんでした。1970年から、ホルマリンをなくす研究も開始しましたが、非常に困難でした」と説明。
ようやく“無ホルマリン化”のでんぷんのりに成功したのは、11年後のこと。さらに研究を重ね、ようやく17年間の歳月と3代の研究者を経て高品質でほぼ無毒な「新フエキ糊」が誕生しました。
今ではプラスチック容器が当たり前ですが、1950〜1960年はガラス瓶にブリキのフタという容器に入っていました。
品質の進化にともない、デザインもどんどん刷新されていきます。1961年より、容器はポリエチレン製のプラスチックに変更され、渡辺さんによると「容器が軽くなったことで、封入作業をする人が一番喜んだという話も聞いたことがあります」とのこと。そこから徐々に展開していき、1975年にはファンシーなデザインの「どうぶつのりシリーズ」が誕生します。