神戸税関・第89代税関長に升平弘美(ますひら・ひろみ)氏(58)が就任した。7月1日付。
5日の着任会見で「幕末から近代日本の発展とともに歩んできた神戸港。さらなる活性化、グローバル化に貢献したい」と抱負を述べた。
升平税関長は東京都出身。国際基督教大学大学院(理学研究科)卒業後の1990(平成2)年、当時の大蔵省に入省。東京、横浜、名古屋、長崎の各税関、大阪税関・関西空港税関支署などで勤務した。
関税局・監視課時代の2012(平成24)年1月、島根県隠岐の島に北朝鮮の木造船(乗組員3人)が漂着した事件では、外務省、海上保安庁、警察庁とともに対応、3日後に3人を福岡空港から出国させた。
長崎税関・監視部長時代の2019(令和元)年12月、熊本県天草市の港で漁船から覚せい剤約590キロ(末端価格約350億円)が押収された事件では、 犯行グループが覚せい剤を海上で積み替える「瀬取り」という手口を取ったため、税関が監視艇を出し、漁船を待ち受けたという。
神戸税関では初めての勤務となるが、1992~94(平成4~6)年、大阪税関勤務時に神戸市内に住んでいた。「神戸を離れて半年後(1995年1月)、阪神・淡路大震災が起きたことが忘れられない」と話した。震災から約2か月後、神戸に立ち寄った際に見た被災地の風景にがく然とし、声が出なかったという。
海外から持ち込まれる違法薬物の摘発が増えている。財務省によると、覚せい剤や大麻など不正薬物の押収量は2022年まで7年連続で1トンを超えた。
2022年10月に新型コロナウイルスの水際対策を緩和して入国者が増加し、主に航空機の旅客が持ち込む事例が増えるなど、密輸の手口も悪質になっている。神戸港でも『上手に(不正薬物などを)隠してくる』という印象を受ける。水際対策は、職員の訓練だけでは対応しきれない。輸入物の件数も多くなっている。AI(人工知能)を搭載した検査機器の開発も進んでいる。より深度のある分析、検査体制を取りたい」と話した。
そして、「関西空港支署の執務室では滑走路が見えなかったが、神戸税関の税関長室からは、港を行き来する船が見えるのが魅力」と語る一方で、「空港や港には、たくさんの人々が集まる。多くのインバウンド(訪日外国人)を、どのように受け入れるのかが重要。大阪・関西万博も開幕まで2年を切った。入出国の際の顔認証システム導入など、シームレス(途切れなく)にできないか、関係機関とも話し合い、お役に立てることができれば」と話した。
学生時代は海外に出かけることが多かったが、社会に出てからは、そうした機会には恵まれなかった。こうした中、財務省国際局・金融開発課時代の2002(平成14)年から3年間、途上国支援として、円借款を担当し、中国やフィリピン、パキスタン、ケニアなどに赴く機会があった。折しも中国が国力を増し、本当に巨額の援助が必要なのかという議論が出だしたころ。政府として、本当に必要な海外への援助とはどういうものか、支援のあり方を考えさせられたとも話す。